【第26回東京フィルメックス】『グラン・シエル』日本人が撮った純度100%のフランス映画、ただそれだけ

グラン・シエル(2025)
Grand Ciel

監督:畑明広
出演:ダミアン・ボナール、サミール・ゲスミ、ムウナ・スアレム、トゥドル・アロン・イストドルetc

評価:30点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第26回東京フィルメックスが開幕した。今年は、チケット販売システムが酷過ぎて、すっかり萎えてしまい3本だけの鑑賞となっている。一番期待していた『グラン・シエル』を観たのだが、想像を遥かに下回るクオリティであった。

『グラン・シエル』あらすじ

建設作業員のヴァンサンは、未来的な巨大複合施設「グラン・シエル」の夜間工事現場で働いている。ある日、同僚の作業員が行方不明になり、現場主任が事故を隠蔽していると労働者たちは疑念を抱く。その後も別の作業員が姿を消していく中で、彼らは団結し、仲間の失踪の謎を解明しようとするが…

本作は、フランスの巨大な未来型都市開発現場を舞台に、労働者の過酷な現実を冷徹な視線で描き出す社会派ドラマとして幕を開ける。夜間シフトの現場作業員のヴァンサンは、家族のより良い生活という夢を叶えるため、献身的に働く。しかし、同僚である移民労働者たちの相次ぐ不可解な失踪と、それに対して何も手を打たない上層部を前に、現場の不穏な空気は高まっていく。そして上層部からの昇進の誘いは、ヴァンサンを同僚たちから決定的に引き離してしまう……。労働者たちの間に不安や不信が広がる過程と並行して、リアリズムを基調としたこの作品にジャンル映画の要素が次第に混入されていく。労働者たちが掘り進む薄暗い地下空間は次第に恐怖が潜む場所となり、巨大な建造物はいつしかディストピア的空間へと変貌する。進歩を象徴する都市開発が完成に向かう一方で、その礎となった労働者たちの精神と倫理が静かに崩壊していく様を、恐怖映画の表象と共に描く演出は、観る者に鮮烈な印象を残すだろう。本作はベネチア映画祭オリゾンティ部門にてプレミア上映された。

※第26回東京フィルメックスサイトより引用

日本人が撮った純度100%のフランス映画、ただそれだけ

理想郷「グラン・シエル」建設に携わる労働者は、夜間稼働で業務に励んでいる。現場は移民労働者が大半を占めており、過酷な労働となっている。最近、地下でひび割れが発生したそうで作り直しのための穴を掘る必要があり、労働者を地下へと派遣しているのだが、ひとり、またひとりと姿を消していく。名簿からも名前が消え、明日は我が身、恐怖に怯えながら労働に励む。

フランスの名門映画学校La Fémisの映画監督科に日本人として初めて入学した畑明広の初長編作品であり、全編フランス語、日本要素ゼロの作品となっている。監督名を伏せたら完全にフランスの労働者映画であり、日本人監督がここまで純度の高いフランス映画を作れるのだと感心する一方で、本作はそれどまりになってしまっている。

グラン・シエル(偉大なる天空)を風刺するように労働者たちの漠然とした不安を、地下労働により消滅するメタファーで表現しているのだが、それは表層に留まってしまい、ありきたりな論の展開に退屈さを抱く。映画は鈍重であり、肝心な《消滅》が物語に影響を及ぼすのがラスト20分なため、物足りなさを抱く。掘り下げ不足感が否めなかった。

最近「BOXBOXBOXBOX」という労働者の不安を見事に物語へと変換した作品を読んでいただけに相性が悪い作品であった。

P.S.年々、協賛が減り、Webサイトの導線が破綻していく東京フィルメックスだが、遂にCMも上映前アナウンスもなくなり、素で映写事故を起こしてしまっているのをみかけるに、来年の開催はかなり危ういかもしれないなと感じた。