『アントニオ・ダス・モルテス』布を咥え剣劇、あるいは崖っぷちの銃撃戦

アントニオ・ダス・モルテス(1969)
ANTONIO DAS MORTES

監督:グラウベル・ローシャ
出演:マウリシオ・ド・ヴァーレ、ウーゴ・カルヴァーナ、ホフレ・ソアレスetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第38回東京国際映画祭にて行われるブラジル映画週間にてグラウベル・ローシャの『アントニオ・ダス・モルテス』が上映される。折角なので再鑑賞したのだが、以前よりも面白く感じた。

『アントニオ・ダス・モルテス』あらすじ

領主に歯向かう山賊たちを討伐するため雇われた殺し屋のアントニオ・ダス・モルテスは、残虐非道な支配者たちの姿を目の当たりにし、いつしか虐げられている農民を解放するために立ち回るようになる。ブラジルの新しい映画=シネマ・ヌーボの旗手として賞賛されたグラウベル・ローシャ監督の代表作。1970年日本公開。2011年、ローシャ監督没後30年を記念した「グラウベル・ローシャ・ベスト・セレクション」にてリバイバル。

映画.comより引用

布を咥え剣劇、あるいは崖っぷちの銃撃戦

グラウベル・ローシャは結構相性の悪い監督である。理由として、ストローブ=ユイレに近い演劇の拡張としてのロケたるスタイルが採用されており、仰々しい演技を《演劇》ではなく《映画》として観なければいけない点に苦痛を感じるからだ。また、グラウベル・ローシャは比較的平面的構図の中でアクションを展開する。『拳銃は俺のパスポート』のような平面を活用したアクションと比較した際に運動に面白みが欠けているように思えた。しかし、改めて観ると確かにそうした癖はあれどもブラジル土着の祭りの中に映画的アクションが混入する異物感に面白さがあるのではと感じた。

たとえば、決闘する場面でアントニオ・ダス・モルテスと敵が布を咥えながら決闘する。その周囲で民衆が盛り上げに努める様は、伝説を継承しようとする祭という虚構と実際の決闘とが織り交ざった不思議な感覚をもたらす。

映画として、伝説の継承に力点が置かれており、話を伝える手法として歌が用いられ、歌によって時空間を超えた物語の運びを実現させている。また、群れが崖っぷちに密集しアントニオ・ダス・モルテスを射撃する。それに対し、反撃すると、死体の山が形成される。非現実的な位置関係でありながら画の位置関係により、映画の中では正当な対立構図であることを表現する。この演出は極めて映画的だといえよう。

グラウベル・ローシャは再考した方が良い監督だと痛感させられた一本である。
※映画.comより画像引用