劇場版 チェンソーマン レゼ篇(2025)
監督:原達矢
出演:戸谷菊之介、井澤詩織、楠木ともり、坂田将吾etc
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ようやく『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』を観た。「チェンソーマン」は珍しく原作もアニメシリーズも観ていたので、アレをどのように映画にするんだろうと興味津々であった。米津玄師の主題歌が映画/アニメ用語から取った「IRIS OUT」だったことで、映画表現に対する期待も高まっていたのだが、少し期待しすぎたようだった。
『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』あらすじ
2022年にテレビアニメ版が放送された藤本タツキの大ヒットコミック「チェンソーマン」の人気エピソード「レゼ篇」をアニメーション映画化。テレビアニメの最終話からつながる物語で、主人公デンジが偶然出会った謎の少女レゼに翻弄されながら、予測不能な運命へと突き進んでいく姿を、疾走感あふれるバトルアクションとともに描き出す。
「チェンソーの悪魔」との契約により「チェンソーマン」に変身し、公安対魔特異4課所属のデビルハンターとして悪魔たちと戦う少年デンジ。公安の上司である憧れの女性マキマとのデートに浮かれるなか、急な雨に見舞われ雨宿りをしていると、レゼという少女に出会う。近所のカフェで働いているというレゼはデンジに優しくほほ笑みかけ、2人は急接近する。この出会いをきっかけに、デンジの日常は大きく変わりはじめる。
テレビアニメ版に引き続きMAPPAがアニメーション制作を手がけ、テレビアニメ版でアクションディレクターを担当した原達矢が監督を務めた。テレビアニメ版のオープニングテーマも世界的ヒットを記録した米津玄師が主題歌を手がけ、エンディングテーマでは米津と宇多田ヒカルがコラボレーションした。
アイリスアウトでセカイ系を批評できるか
デンジが上司であるマキマに惹かれる最中、謎の女レゼとエンカウントしたことで、二重の恋に引き裂かれそうになる。しかし身体は正直で、レゼを求めるようになる。しかし、レゼこそが悪魔だった。
恋は盲目、視野が狭まる。レゼとのデートの視野が狭くなる描写への誘導として、本作では「アイリス・アウト」の特徴ともいえる円のモチーフを散りばめていく。花、時計、コーヒーカップ等々。社会の理不尽と、複雑な人間関係と対峙し成長していったデンジがまるで蜘蛛の巣に絡めとられる蝶のようにファムファタールの本来の訳である《致命的な女》を纏うレゼに嵌められ決闘へともつれこむ。そして、もつれの解放としてレゼに「アイリス・イン」が施される。ある意味、セカイ系を批判的に描くためのカギとして「アイリス・アウト/イン」が用いられており、断絶された個々と社会との関係性の領域を見つめるようなものとなっている。しかし、それにしては円のモチーフがただの配置に留まってしまい、デンジの視野の狭さを象徴させる決定打になっておらず、ただのサブリミナル効果程度の演出に陥ってしまったのは勿体ないと感じた。故に、肝心なアイリス・インによる関係性の解消もわかりにくい。
↑『誓いの休暇』はモスフィルムがYouTubeにて配信しているので是非。
一方で、マキマがデンジを映画館デートに誘う場面は良かった。デンジは無知の人間である。故に映画館で映画を観たとしてもコードがわからず、一般人の笑いどころ、泣き所に疑問を抱く。そしてマキマの方を向くと、シネフィル仕草をしており、自分の確固たる評価軸で鑑賞している。10本に1本出会えるかどうかの傑作を追うようにして映画館を梯子し、ついに名画座でソ連映画『誓いの休暇』を観て涙する。デンジもまた、この映画に感銘を受ける。無垢なデンジを軸に一般人/シネフィルの宙吊りに立たされ感情の変化を描く。この状況自体、現実では中々ないような状況であり、フィクションならではの思考実験なのだが、本作では的確なショットの繋ぎで感情の流れを捉えることに成功していた。
恋を軸とした感情の揺らぎが主軸となる作品なため、最も重要なフックともいえるのだが、肝心な本編ではレゼ/デンジの関係が中心となり、それ以外の女性、マキマですら蚊帳の外にいたので、ここで脚本を変えて対応する必要があったように思える。一本の映画としては、デンジの二重の恋の葛藤が見え辛いものとなっているからである。
流石にアクションこそ、手数が多く、高速爆破攻撃に印象派的点描技術が応用されていて面白かったのだが、ストーリー面では引っかかる所が多い作品であった。