宝島(2025)
監督:大友啓史
出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太etc
評価:20点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
note創作大賞で超長尺映画を紹介した記事が中間選考を突破したこともあり、気乗りはしなかったのだが191分の『宝島』を観に行くことにした。本作は、真藤順丈の同名小説を映画化したもので、戦後沖縄の痛ましき歴史をミステリー仕立てで描いた内容である。これが典型的な小説の映画化の失敗例であり、観ていて腹が立つものとなった。
『宝島』あらすじ
戦後の沖縄を舞台に時代に抗う若者たちの姿を描き、第160回直木賞を受賞した真藤順丈の小説「宝島」を映画化。妻夫木聡が主演を務め、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太ら豪華キャストが共演。「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督がメガホンをとった。
1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民らに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。そんな戦果アギヤーとして、いつか「でっかい戦果」をあげることを夢見るグスク、ヤマコ、レイの幼なじみの若者3人と、彼らにとって英雄的存在であるリーダー格のオン。しかしある夜の襲撃で“予定外の戦果”を手に入れたオンは、そのまま消息を絶ってしまう。残された3人はオンの影を追いながら生き、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、それぞれの道を歩んでいくが、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境で、思い通りにならない現実にやり場のない怒りを募らせていく。そして、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出す。
親友であるオンの痕跡を追う主人公グスクを妻夫木聡が演じ、恋人だったオンの帰りを信じて待ち続けるヤマコ役を広瀬すず、オンの弟であり消えた兄の影を追い求めてヤクザになるレイ役を窪田正孝が担当。そんな彼らの英雄的存在であるオン役を永山瑛太が務めた。
グスクはあんなこと言わないだろう
「まんがで読破」、「100分de名著」以前の世界において映画はファスト小説の役割を担っていた。小説を読むと何日もかかってしまうものが、映画だと数時間で重要なポイントを掴める。イメージのメディアなので、人物整理をする必要もない。なので、映画だと3時間超えは長くとも小説を基準にすると短いのだ。上映時間3時間以上かけてもダイジェストになってしまう傾向があり、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』をはじめとする単にエピソードをパッチワークしただけの小説映画が爆誕することもしばしばある。
さて、『宝島』は明らかにダイジェストの映画である。戦後、日本本土から見捨てられ、アメリカに占領された沖縄。戦争はまだ終わってないと、略奪者であるアメリカから略奪することで戦っていた「戦果アギヤー」にフォーカスがあたる。ある強奪作戦に失敗し、米軍に追われる中でメンバーは散り散りとなってしまう。映画は、そのまま警察になり、ひょこんなことから二重スパイ的立場へ上り詰めたグスクを中心に、消息を絶ったオンを追い続ける。グスクの数十年に渡る調査と重ね合わさるように見捨てられた地・沖縄の側面が明らかとなる。日本のビッグバジェット映画で、本当の加害性を見つめる内容に惹かれたものの、時代のうねりを反映するような群と群の対立が希薄である。そもそも、感情が揺さぶられるようなエピソードがグスクの外側で発生しているような構成となっているため、彼の心境の変化に全く説得力がない。
これは致命的であり、あれだけ二重スパイでありながら米軍と対立していたグスクが、終盤においてメンバーと対峙した際に「暴力はなにも解決しない」と言い始めるのはおかしい。いつ、国家の犬になったんだと疑問が湧くのである。そして、映画は冗長で退屈でエモさゴリ押しなパートへと突入してしまう。折角、英語、日本語、沖縄の方言が入り乱れ、あえて聴き取りづらくすることで言葉にもならない魂の対立を映画へ翻訳できているのに、その滾る感情を裏付けする挿話を削ってしまい粗悪なダイジェストに留まってしまったことは残念である。
また、大友監督といえば激しいアクションが特徴であり、終盤の暴動シーンが見所となっているのだが、これも沖縄の異なる背景を持った人が一致団結して米軍に立ち向かう群れのアクションを形成すべきところを、コマのように配置した人たちが棒立ちで罵声を投げつけている。生きるか死ぬかの緊迫感のないダラダラとしたものになっていたので、どうした?と疑問がふつふつと沸き上がった。これは酷い。