『Bravo Bene!』知らない監督の頓挫したプロジェクトについて

Bravo Bene!(2025)

監督:フランコ・マレスコ

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第82回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品されたフランコ・マレスコ監督新作『Bravo Bene!』を観た。フランコ・マレスコ監督といえば、マフィア擁護のコンサート主催者を撮ったドキュメンタリー映画『The Mafia Is No Longer What It Used to Be』で第76回ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞している監督であるが、イタリアのローカルなネタを扱っているため、日本では全く紹介されていない。本作も、今回のヴェネツィア国際映画祭コンペティションの中で最も日本に入ってくる可能性が低いであろう作品だ。あまりにイタリア事情が絡むハイコンテクストな内容で、土地勘がない人にはよくわからない作品だからだ。一方で、三大映画祭地元映画枠にありがちなつまらない作品かと訊かれたら、そうでもない作品であった。恐らく、事情をある程度知っていたら傑作といえるのではないだろうか?

『Bravo Bene!』あらすじ

The shooting of Franco Maresco’s film about Carmelo Bene is abruptly interrupted after yet another accident on set. Pulling the plug is the producer Andrea Occhipinti, frustrated by the endless takes and constant delays. Meanwhile, Maresco accuses the production of “filmicide” before vanishing without a trace. In an attempt to repair the damage, a friend of Maresco, Umberto Cantone, steps in, summoning as witnesses all those involved in the endeavour, in an investigation that becomes a chance to explore the personality and ideas of one of Italian cinema’s most corrosive and apocalyptic authors.
But what if, in the meantime, far from everything and everyone, Maresco is finishing his film — in his words, “the only way to give shape to the anger and horror I feel for this shitty world”?
訳:フランコ・マレスコ監督によるカルメロ・ベネを描いた映画の撮影は、またしても現場での事故により突如中断される。撮影を中断したのは、延々と続くテイクと度重なる遅延に苛立ちを募らせたプロデューサー、アンドレア・オッキピンティだった。一方、マレスコは製作陣を「映画人殺し」と非難し、跡形もなく姿を消す。この損害を修復しようと、マレスコの友人ウンベルト・カントーネが介入し、製作陣の関係者全員を証人として召喚する。この調査は、イタリア映画界で最も痛烈で終末論的な作家の個性と思想を探る機会となる。
しかし、もしその間に、すべてから、そしてすべての人から遠く離れた場所で、マレスコが映画を完成させていたとしたらどうだろうか。彼自身の言葉を借りれば、「このクソみたいな世界に対する怒りと恐怖を形にする唯一の方法」なのだ。

※第82回ヴェネツィア国際映画祭より引用

知らない監督の頓挫したプロジェクトについて

本作は映画監督であり劇作家でもあるカルメロ・ベーネ(『トルコ人たちのマドンナ』で第29回ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞している)の映画を制作する。しかし、度重なるリテイクにより怒りを募らせたプロデューサーの手によってプロジェクトは中断されてしまう。フランコ・マレスコ監督は失踪し、彼の友人であるウンベルト・カントーネが介入する様子を描いたモキュメンタリーとなっている。

要は『ホドロフスキーのDUNE』や『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』に近いような作品であり、未完の映画を多面的に捉える中で映画監督や映画業界の傲慢さやロマン、軋轢をそのものに迫るといった内容となっている。

実際に制作されている作品は白黒で撮影されていて、『第七の封印』やパゾリーニの露骨なパロディが提示されており、開き直った、でも腕のある監督による再現の凄みに惹き込まれる。そして、メイキングの晴天化のロケ地を交差させることで、プロジェクトに揺蕩うロマン、そして遅延が続くことによる焦燥感が浮かび上がってくる。全く土地勘のない監督の映画頓挫話なので、内容自体はピンと来ないものの、創造の世界の高揚感と異様さはばっちり伝わってくるユニークな作品であった。