LOVE(2024)
監督:ダーグ・ヨハン・ハウゲルード
出演:アンドレア・ブレイン・ホヴィグ、タヨ・チッタデッラ・ヤコブセン、マルテ・エンゲブリクセン、トーマス・グレスタッド、ラース・ヤコブ・ホルムetc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下にて開催中の「オスロ、3つの愛の風景」にて3本観て来た。『SEX』『LOVE』は昨年に鑑賞しているのだが、あまりにも理論と英語が難しすぎて、凄い気配を感じるもののその芯に到達することができず、しょうもないレビューをネットに晒すこととなった。『LOVE』は日本語字幕付きで観ても難しいところがあったが、それでも後半からエンジンがかかってくる力作であった。
『LOVE』あらすじ
ベストセラー作家や図書館司書という経歴を持つノルウェーのダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督が、ノルウェーの首都オスロを舞台に「恋」「愛」「性」にまつわる3つの風景を描くトリロジーの第2作。恋愛に不器用な大人たちが、それぞれの本音をさらけ出しながら、さまざまな愛の形を模索し、肯定していく姿を映し出す。
泌尿器科に勤める医師マリアンヌと看護師トールは、ともに独身で、ステレオタイプな恋愛から距離を置いている。マリアンヌは友人に紹介された男性に会うが、子どもがいる彼との恋愛に前向きになれない。その後、フェリーに乗ったマリアンヌはトールに遭遇し、マッチングアプリなどから始まるカジュアルな恋愛を勧められ、興味を抱く。一方トールは、フェリーで知り合った精神科医ビョルンの姿を、自らの勤務先である病院で見かけ……。
2024年・第81回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。日本では25年9月、特集上映「オスロ、3つの愛の風景」にて、トリロジーの「SEX」「DREAMS」とともに劇場公開。
あなたは自治体に必要なの
『SEX』がクローネンバーグ『クラッシュ』、『DREAMS』がケシシュ『アデル、ブルーは熱い色』だとしたら、『LOVE』はワイズマン『ボストン市庁舎』にあたる。ダーグ・ヨハン・ハウゲルードは極めて小説的論の組み立てを三部作異なる手法で描いている。ただし、根幹は変わらない。一貫して、ゲイや同性愛といった言葉によって個人の人生を規定することを回避し、個人のケースと向き合いながら独自に言葉を編み込む。スペクタクル的な対立構造を拒絶することで多様性のある社会を見出そうとしている。
本作ではいくつかの登場人物の独特な恋愛観が描かれている。個人的には看護師トールのエピソードに惹かれた。彼は相棒であるマリアンヌの診断に違和感を抱いている。彼女自身は冷静に簡潔に事象を伝えているのだが、トールからすれば伝えるべきものが伝えられていないと感じている。その感覚の差はどこから来るのだろうか。映画を追っていくと彼の性的指向の特性に由来することがわかってくる。それを開示することによって、それによって苦しんでいる者を救済できるのではと考えるようになる。泌尿器科では、手術により二度と射精ができなくなる患者がいる。自分の肉体の喪失に葛藤する者もいる。当事者に近いからこそ伝えられるものがるのではと葛藤するのである。
ダーグ・ヨハン・ハウゲルードが面白いところは、マジョリティに対して声高らかにマイノリティの権利を主張し暴力的な形で対立構造に落とし込むことは回避されている点にある。あくまで社会はヒトとヒトとの有機的な繋がりでもって形成されるので分断してはいけないと三部作の中で言わんとしているのだ。実際に本作では、クライマックスに「あなたは自治体に必要なの」といったセリフがでてくる。フレデリック・ワイズマンの映画のように人々が社会の役割に沿って行動し社会が生まれる様子、それも個人が人生に折り合いをつけながら社会と関わっていく様を通じてあるべき世界を説いたのである。
※映画.comより画像引用