【ネタバレ批評】『ChaO』永遠なる愛を崩壊させたクリエイターに訪れる運命は永遠なる罪では?

ChaO(2025)

監督:青木康浩
出演:鈴鹿央士、山田杏奈、シシド・カフカ、梅原裕一郎etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2025年アヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門にて準グランプリに相当する審査員賞を日本映画が獲った。とはいえ、アヌシーと日本映画との相性は強く、毎年何かしらの賞は掻っ攫っていくのでそこまで珍しくはない。ただ、明らかに海外向けっぽいタッチの本作が全くプロモーションが表立つことなく250館以上で公開され、興行面では案の定な結果となっているらしい。「爆死案件」とネットのおもちゃにされかけているのだが、実際に観てみると、内容面で批評されるべき作品であった。本作のテーマ自体は、確かに海外の映画祭に出品されるだけあって重要なトピックを扱ってる。その観点の鋭利さには惹き込まれるものがあった。しかし、本作は数分に一回変わる作画に巻き込まれる形で脚本も迷走し、あり得ない形のハッピーエンドとなっていたのだ。映画.comには脚本家の名前がないことから、恐らくある種のリレー小説的、行き当たりばったりで作られたのであろう。その面を中心に批評していく。なお、その特性上、結末に触れる必要があるためネタバレありとした。

『ChaO』あらすじ

「鉄コン筋クリート」「海獣の子供」などで知られるアニメーション制作会社STUDIO4°Cが、アンデルセンの名作おとぎ話「人魚姫」をベースにオリジナル作品として手がけたアニメーション映画。人間と人魚が共存する近未来世界を舞台に、人間の青年と人魚王国の姫が織りなす種族を超えた恋の行方を、制作期間7年、総作画枚数10万枚以上という緻密なアニメーションで描く。

船舶をつくる会社に勤める平凡な青年ステファンは、ある日突然、人魚王国の姫チャオから求婚される。戸惑いながらもチャオと一緒に暮らしはじめたステファンは、ピュアで真っ直ぐなチャオの愛情を受け、少しずつ彼女にひかれていく。

テレビドラマ「silent」などの話題作に出演し「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」ではゲスト声優を務めた鈴鹿央士が人間の青年ステファン、実写版「ゴールデンカムイ」シリーズの山田杏奈が人魚姫チャオの声をそれぞれ演じた。2025年アヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門で、準グランプリに相当する審査員賞を受賞。

映画.comより引用

永遠なる愛を崩壊させたクリエイターに訪れる運命は永遠なる罪では?

造船会社でエンジニアをしているステファンはひょこんなことから事故に巻き込まれる。目が覚めると病室で、何故か人魚王国の姫から求婚される。この造船会社では、船のスクリューが人魚を傷つけるとして人魚界と対立関係にあった。それは国家を巻き込むレベルの軋轢であったのだが、ステファンと人魚姫が結婚することで人間界と人魚界の政治関係は良好になる。そこで社長は今までの態度を180度変え、ステファンを右腕に昇格させ、彼のアイデアである人魚を傷つけないスクリューの開発を許可することとなる。だが、ステファン自身は姫からの一方的な婚約に困惑したままだった。エンジニアとしての夢を叶えられる土壌は棚から牡丹餅で整ったわけだが、家族、会社、社会から注がれるグロテスクな眼差しに耐えられない。故に姫を避けるように仕事に没頭することとなる。

本作は爽快ポップなタッチに反して「恋愛のグロテスクさ」を描いている。一方的な想いが、対話を通じて相思相愛になっていく恋愛のプロセス。個人の問題であるはずなのに、家族や友人、会社の人は土足で上がり込み干渉していく。それが国家絡みなため、まるでパブロ・ララインの映画のような傀儡的抑圧となってくるのだ。そして、姫は婚約とともに「無知な妻」へと押し込められる。家で家事をする。束の間のデートでも完璧にステファンへ尽くそうとしつつ、その緊張感から出る綻びによって恥が表立つのだ。

しかし、映画はあくまでステファンを主軸に置いているため、彼自身が抑圧から逃げ出すように創作へ逃避する様を肯定していく。それなら歪な婚姻生活の終着駅は「永遠なる愛」に対する「永遠なる罪」になるだろう。蓮實重彥は「ショットとは何か 歴史編」でスクリューボール・コメディは婚姻の破棄の物語であることを論じていたが、彼の論を援用するなら本作もスクリューボール・コメディとして婚姻は破棄される運命にあったはずだ。

しかし、こともあろうことか本作は決裂した婚約に対してとてつもない勢いで再結合しようとするのである。ステファンは忘却した罪を思い出し、姫の正体を知る。そして姫に会いたい一心で会社の船を強奪し、怒れる人魚の父と対決する中で姫を抱くのである。そこには悲哀、憎悪、叱咤もない。純粋なる抱擁があるのみなのだ。これは流石にトロフィーワイフ過ぎやしないか。忘却した罪を思い出したのなら、それは背負う必要がある。それ以前に、永遠なる愛を崩壊させたクリエイターに訪れる運命は永遠なる罪一択なのではないだろうか?

このように問題を抱えた作品ではあるのだが、アジアの喧騒とした空間と家族、会社、社会が織り成す複雑な関係性をシンクロさせながら強要された恋愛のグロテスクさを描くアプローチは興味深く観た。
※映画.comより画像引用