『ブワナ・トシの歌』寅さん、タンザニア滞在記

ブワナ・トシの歌(1965)

監督:羽仁進
出演:渥美清、ハミン・サレヘ、下元勉、ビビ・アグネス、ギダボスタ・サミエル

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

シネマ・ヴェーラにて開催の羽仁進で長年探していた『ブワナ・トシの歌』を遂に観ることができた。アフリカ版男はつらいよといった趣のある作品だが、60年代の東宝がここまでオリエンタリズムに陥らず異国間のコミュニケーションへ真剣な眼差しを向けていたとは驚かされた。

『ブワナ・トシの歌』あらすじ

東アフリカのケニアとタンガニーカの国境に、一人の日本人・片岡俊男がやってきた。日本の学術調査隊が、総合研究をするための施設を造るためにやって来たのだ。しかし三日余りの旅をして辿りついた集落には、居るはずの手助けをしてくれる人間は居ず断りの手紙が残されているだけであった。困りはてた俊男は、知りあいになった少年を通じて、土地の青年に協力を頼んだ。が、少年の案内で家長の集落にいってみると、人集めどころか家畜の牛追いに一日中こき使われる始末。それでも俊男は懸命に働いた。そのかいあって俊男は集落の誰からも「トシ」と呼ばれ親しまれるようになっていった。やがて集落の人たちも、そんな俊男の気持を察して仕事に協力してくれるようになった。が、彼等には家を建てるという概念がまったくなく、加えて彼等には特有のポレポレ(ゆっくり)の習慣があって、仕事ははかどらなかった。が、そんなある日俊男は、人間の先祖・マウンテン・ゴリラを追って研究を続ける大西博士に会い、その熱意にうたれた。ちょうど、そのころこのアフリカの原野にも、新しい独立ムードが盛りあがってきた。その影響で俊男の仕事は、また遅れた。そのうちに、遂に新しい国が誕生した。そして作業場は急に活気をおび、立派な近代建築が完成した。俊男は土地の青年たちと共に夜が明けるまで踊りつづけた。やがて陽が昇り、土地の青年たちは俊男を湖畔に連れだし、俊男のために歌をうたった。“東の国からトシというジャポネがやってきた……。俊彦は、お礼にまだ海も汽車も見たことがないという青年を港町に案内した。やがて別れの時がやってきた。俊男は故国・日本へ、青年はアフリカの原野に帰っていった。

MOVIE WALKER PRESSより引用

寅さん、タンザニア滞在記

遠路はるばる当時のタンガニーカ、現タンザニアへ渥美清演じるトシがやってくる。片言の英語、スワヒリ語でありながら、日本語を織り交ぜしぶとく対話をし目的地を目指す様子が描かれる。しかし、いざ現場にたどり着くとプロフェッサーは病気で帰国していた。しかたがないので独りでプレハブ小屋を建てることとなる。現地人を雇おうにも微妙な食い違いで、牛追いの仕事をやる羽目になったり、遅々として小屋は建たない。そんな苛立ちから作業員に暴力を振るったことで、村八分となり、そこで異文化理解の重要性を身体で知ることとなる。アフリカ史を勉強すると、アフリカの部族は集団を重んじる。他人の土地であっても助け合いの精神で代わりに監視する。暴力は部族間争いの時に行使される極めて致命的な行為なのだ。また、映画を観ると明らかなとおり、アフリカの地に流れる時間は雄大である。日本のようにコマ切れとなった時間の中でせっかちに動くわけではない。長い時間をかけて関係を構築して目的を達成する必要があるのだ。アフリカの時間や文化に慣れているつもりが命取りになった時に真のアフリカを知る構図は胸を熱くさせた。