『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』ボーちゃんが暴君に!?

映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ(2025)

監督:橋本昌和
出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ、真柴摩利etc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2025年のクレヨンしんちゃん映画は「ボーちゃんが暴君に」といった今年最高レベルにハイセンスな惹句がついたことで話題となった。舞台もしんちゃんと相性の良いだろうインドと言うことで期待して観に行った。世界遺産アカデミー認定講師としては、暴君ぼーちゃんが猛威を振るう城が世界遺産のラージャスターンの丘陵城塞群を意識している点に興奮したわけだが、映画としては非常に歪な作品となっていた。

『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』あらすじ

アニメ「クレヨンしんちゃん」の劇場版第32作。インドを舞台に、しんのすけたちカスカベ防衛隊が、暴君と化したボーちゃんの暴走を止めるため奮闘する。

インドのハガシミール州ムシバイが春日部と姉妹都市になったことを記念して、「カスカベキッズエンタメフェスティバル」が開催されることになった。そのダンス大会で優勝するとインドに招待され、さらに現地のステージで踊ることができると聞いたカスカベ防衛隊の5人は、力を合わせて大会で見事に優勝し、インドへ旅立つ。観光を満喫する中で、しんのすけとボーちゃんは怪しげな雑貨店に立ち寄り、「鼻の形」をしたリュックサックを見つけて購入する。ところがそのリュックには恐ろしい秘密があった。中から出ていた「紙」を鼻に刺してしまったボーちゃんは、邪悪な力に導かれ「暴君(ボーくん)」となり、世界を揺るがす恐ろしい力を手にしてしまう。

「映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」「映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」などシリーズに多く携わってきた橋本昌和が監督、うえのきみこが脚本。俳優の賀来賢人がインドの大富豪ウルフ役で声優を務めるほか、お笑いコンビ「バイきんぐ」の小峠英二と西村瑞樹も、しんのすけたちと関わる現地インド人役で出演している。

映画.comより引用

ボーちゃんが暴君に!?

本作のテーマは意外にも『私たちが光と想うすべて』に通じるものがある。混沌と祝祭が混ざり合うインドの高揚感を前に他者によって規定されるアイデンティティから逃れようと葛藤する物語となっていて、不思議な紙を鼻に詰めたことでボーちゃんの中に眠る承認欲求が暴走し「ボクの何を知っているんだ」としんちゃんに突き付ける。同様の葛藤を持つ女優をゲストキャラとして配置することでテーマの掘り下げを狙っている。ただし、このテーマにより映画全体のバランスが歪なものとなっている。

インド映画のように歌と踊りによって進行するわけだが、その音楽はインドというよりかは「江南スタイル」ぽさがあったり、某ハリウッド映画の主題歌をカラオケするといったものであり、『バーフバリ』やシャー・ルク・カーンの映画のようなインドの伝統的な音楽とは異なる。ただテーマの特性上、我々のイメージが抑圧を与える様を描く必要があるため、この外しは論理的に正しい選択ではあるのだが、違和感が強く話に没入しにくいものがある。

また、映画は暴走するボーちゃんによってキャラクターが離散するのだが、尺の都合上、デウスエクスマキナによって気が付けば全員集合しており、ボーちゃんを完全なるヴィランにするのは申し訳ないと、驚くべき超展開によって共通の敵を生み出すに至る。この落とし方は斬新過ぎて面白くは感じたものの、全体的に雑な映画であった。

それにしても、今回のしんちゃんギャグは鋭利なナイフであった。「おかえリーマンショック」というパワーワードを爆誕させていたのには流石に笑った。