『Sigui 1969:The Cave of Bongo』ジャン・ルーシュのバンディアガラの断崖調査

Sigui 1969:The Cave of Bongo(1969)

監督:ジャン・ルーシュ

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

会社の近くの本屋で「ジャン・ルーシュ──映像人類学の越境者」を見つけたので読んだのだが、なんとジャン・ルーシュは世界遺産であるバンディアガラの断崖のフィールドワークをかなりの頻度で行っており、映画も8本作っていた驚くべき新事実を知った。バンディアガラの断崖はマリを代表とする世界遺産であり、アンマという神を信じるドゴン族の集落が280も存在する場所である。巨木や大迫力な崖、その地形を活かして建てられた集落が印象に残る世界遺産である一方、あまり詳しい資料はネットにないような印象を受ける。今回、ジャン・ルーシュ監督が撮った1本『Sigui 1969:The Cave of Bongo』を観たのだが、面白い風習を観ることができた。

『Sigui 1969:The Cave of Bongo』概要

The third year of the Sigui ceremonies, celebrated every sixty years by the Dogons of the Bandiagara cliffs, Mali, takes place in the village of Bongo. Around Anai Dolo, who is to experience his third Sigui, men have retired in the cave, they shave and share salt and sesame.
訳:マリ、バンディアガラ断崖のドゴン族が60年ごとに祝うシグイの儀式の3年目が、ボンゴ村で行われる。3度目のシグイを迎えるアナイ・ドロの周囲では、男たちは洞窟にこもり、髭を剃り、塩とゴマを分け合っている。

ジャン・ルーシュのバンディアガラの断崖調査

ジャン・ルーシュは『人間ピラミッド』や『メートル・フ』の露悪的植民地主義をやらかした映画監督のイメージが強く、個人的に忌避していたのだが、本作を観ると文化人類学者として適切な距離感からドゴン族の風習を捉えようとしている作家でもあることがわかる。

風景をパンしながら捉え、村へ入っていくフレデリック・ワイズマン作品のような導入から始まる。ナイフでゴリゴリスキンヘッドを削ってフケが削がれていく人体の不思議に圧倒される。村人たちは小さい山のようなものを作り、そこに模様を描き込んでいく。やがて、その小山に棒を立てる。子どもたちが洞窟の木陰でスタンバイしており、ボス的な存在が発破をかけると飛び出す。そして大蛇のようなうねりの中で踊り狂うのだ。

村人のほとんどは行事に集中しており、カメラが干渉することはない。数名のダンサーがカメラの方を向いて踊るに留まっている。

「ジャン・ルーシュ──映像人類学の越境者」を読むと、植民地主義的アプローチからの脱却の手法を模索していたようで、このバンディアガラの断崖に関するドキュメンタリー群は後に総集編としてドゴン族を交えた編集が行われ、ドゴン族の集落でも上映されたとのこと。これは難しい塩梅の話ではあるが、ドゴン族の儀式は3年を超えて立ち会うことができず、またモロコシのビールによって開かれた感性で語られる秘密言語によって行われる。当人が担当しない領域で何が行われているのか?当事者でありながら知らない文化の側面をフィードバックすることを行っていたと書かれていた。

今、ジャン・ルーシュを追うのは私にとって重要なのかもしれない。