劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション(2025)
監督:松木彩
出演:鈴木亮平、賀来賢人、菜々緒、鶴見辰吾、石田ゆり子、江口洋介etc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
8月から管理職になりエクストリームな勤務形態となった。配属されたからにはまず、チームメンバーの特性を掴む必要がある。そのため数日、隙あれば雑談をしていたのだが、メンバーに鈴木亮平のファンがいた。『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション』を楽しみにされていた。映画ファン層はあまりテレビドラマの映画を観ない傾向があり、実際の興行収入とSNSのTLとの温度差によってなんでこの手の作品が受容されているのかがわからないケースが多い。これは一般感覚の話をうかがえるかもしれないと劇場へ行ってきた。昨年の『推しの子』や『グランメゾン・パリ』がそうだが、最近の日本の大衆映画、テレビドラマ映画は下手なインディーズアート映画と比べてハイクオリティなものとなっている気がする。小手先の撮影技術により脚本がおざなりになることは少なく、多少テレビドラマ感は強くとも、共感とアテンションのコントロール、初見でも楽しめる構造が綿密に組み立てられており無駄がないのである。そして、本作もまた2025年ベスト日本映画の候補に輝く大傑作であった。ドラマも劇場版1作目を観ていなくとも全くもって心配する必要がない。
『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション』あらすじ
オペ室搭載の大型車両で事故や災害現場に駆けつける救命医療チーム(モバイル・エマージェンシー・ルーム=MER)の活躍を描いたテレビドラマ「TOKYO MER 走る緊急救命室」の劇場版第2作。
TOKYO MERの活躍が高く評価され全国主要都市に新たなMERが誕生するなか、沖縄・鹿児島では離島地域に対応できるMERの誘致活動が活発化する。指導スタッフとしてTOKYO MERのチーフドクター・喜多見と看護師の夏梅が派遣され、オペ室搭載の中型車両を乗せたフェリーで離島での事故や災害に対応する「南海 MER」の試験運用が始まるが、半年が過ぎても緊急出動要請はなく、廃止寸前に追い込まれていた。そんなある日、鹿児島県の諏訪之瀬島で火山が噴火し、ついに大規模医療事案への出動が決まる。島では想像をはるかに超える惨状が広がっており、噴煙のためヘリコプターによる救助はできず、海上自衛隊や海上保安庁の到着も数十分後だという。噴石が飛び交い溶岩が迫るなか、南海MERは島に取り残された79人の命を救うべく高難度のミッションに挑む。
主人公・喜多見役の鈴木亮平らおなじみのキャストに加え、南海MERのメンバー役で江口洋介、高杉真宙、生見愛瑠、宮澤エマ、島民たちを救うべく奔走する現地の漁師役で玉山鉄二が新たに出演。
プロジェクトマネージャー試験の勉強になりました
まず、導入としてアクションから始まる。緊急ボタンが押されるとチームが各々の役割を遂行する。しかし、それは南海MERを仕切る牧志が魚を釣るための人手要請であった。ギャグパートでありながらも端的にチームプレイを魅せる導入をいれ、そこから本格的なアイスブレイク的ミッションが始まる。南海MERと東京MER双方のミッションを1秒単位のショットで繋げていく。医療現場において1秒たりとも無駄にはできない。スマホで患者の容態を把握。チーム内での言葉と対外的な言葉を使い分けながら事前処理を行い、現場では肉体/メンバー/機器へと目を向ける。だが、急いでいる時でも長考し判断しないといけない局面がでてくる。そこでは長めの寄りのショットを持ってくる。ここでMER治療を行えば、実績となり南海MER解体の危機を免れるエビデンスとなる。しかし、リスクは大きいし、仕事の本質は実績よりも患者を殺さないことにある。だからヘリコプターで外部に委譲する手を取った方がよい。一方で、長期的にみると、南海MER解体により離島への初期対応が遅れ、災害時に死者を出す可能性がある。この短期/長期、ステークホルダーとの関係性を総合的に判断し、責任取った決断をリーダーはしなければいけないのだ。その局面では10秒近い長考のショットが挿入されるのだ。このリズムが映画に緊迫のメリハリを与える。
そして、宙吊りのサスペンスの連鎖を軸とする火山噴火から80名近い島人を救助するミッションが始まる。マネージャー層~経営層はステークホルダーとの複雑な関係性、政治的、個人的思惑が渦巻いている中、その時の最適解をテーラリングしていくのである。PMBOK的には、組織の解決能力に不足があるので、必要情報だけヒアリングし、別ン部署からの応援を呼ぶ。KPIが死者0人なので、南海MERのスタッフが死亡するリスクを回避する方向で行くのがセオリーだが、牧志のもっている情報、現場へ他の部隊が急行できるまでのラグ、緊急性を総合判断し、リスクを受容するといったようにプロジェクトの独自性から判断していくのだ。
そのため、管理職として学びの多い作品だった。プロジェクトマネージャー試験午後Ⅱの論述問題で悩んだら、本作をテーラリングして書こうかなと思ったまである。
※映画.comより画像引用