Break the Game(2023)
監督:Jane M. Wagner
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
私は映画批評VTuberとして動画を出したり、たまに配信したりするのだが、先日とても怖いストリーマーに関するドキュメンタリーを観た。それが『Break the Game』である。個人勢/企業勢問わずストリーマーはしばしば体調不良で休業することがある。その原因の多くが、膨大なコメントによるストレスである。ただ、意外と配信をやったことがないとコメントがどれだけ心理的負荷になっているのか、それでもなお配信を続けようとし潰れてしまうのかはわかりにくいのかもしれない。そんなストリーマー心理を生々しく捉えた作品が『Break the Game』であった。
『Break the Game』あらすじ
After coming out as trans, world-record-holding gamer, Narcissa Wright loses her massive fanbase. To win them back, she sets out to break a new record in The Legend of Zelda: Breath of the Wild and live-stream every minute of her quest.
訳:トランスジェンダーであることをカミングアウトした後、世界記録保持者であるゲーマー、ナルシッサ・ライトは、かつての膨大なファンベースを失ってしまう。ファンを取り戻すため、彼女は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』で新記録を樹立し、その挑戦の全貌をライブ配信する。
ブレワイRTA界隈であった怖い話
2014年に「ゼルダの伝説 時のオカリナ」RTAで世界記録を樹立したストリーマーであるナルシッサ・ライトは自分がトランスジェンダーであることを告白するのだが、そこから彼女の人気は失墜する。「過去のあなたを返せ」とトランスフォビアからの暴言がコメントを埋め尽くし彼女の心理を傷つけていく。もちろん、彼女を応援しようとする者もいるのだが、コメント欄で戦争が勃発し、配信の外側でも醜悪な切り抜き動画がアップされてしまう。そんな中、ゼルダの伝説新作である「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」が発売され、RTAに挑戦するようになる。また、別の配信者と親密な関係となり自らの人生を再構築しようとする。
本作はドット絵によるアニメで、ナルシッサ・ライトの過去が描かれる。自分の性に対する違和感と母親との確執が孤独を生み出し、配信がその孤独を埋める聖域として機能していた。その聖域が暴言により奪われようとした時、彼女の心の拠り所はどこに置くべきかといった苦悩が見えてくるのだ。そして、同時に配信中毒の怖さも見えてくる。暴言に覆いつくされているようであれば、配信から距離を置く必要がある。しかし、彼女は心がボロボロになりながらも配信をしているのだ。ある意味、リストカットをするように暴力に依存しているようにも思える。生活費のためにスパチャを稼がねばならないから配信を続けるよりかは、孤独を埋めるためには配信するしかないといった強迫観念と死への欲動を混ざり合ったグロテスクな感情が突き動かしているのだ。この感覚はVTuberでもよく陥る状況であり、心身に異常をきたしながらも配信や動画制作を行いついには倒れる危険性にも繋がってくる。
だからこそ、本作は配信者にこそ観てほしいものがある。