Ulysses(2024)
監督:Nikita Lavretski
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
超長尺映画100本を代わりに観る《第7章:深淵なる実験映画》企画でベラルーシの9時間映画を観た。
『Ulysses』あらすじ
Ruslyk, the president’s personal film director, tries to save the world while battling mental illness. During his one-day odyssey through the city of Minsk he encounters doctors, politicians, propagandists, artists, drunks and lowlifes.
訳:大統領専属の映画監督ルスリクは、精神疾患と闘いながら世界を救おうと奮闘する。ミンスク市内を巡る一日の旅で、彼は医師、政治家、プロパガンダ活動家、芸術家、酔っ払い、そして下劣な人間たちに出会う。
ベラルーシの9時間映画
「目に見えないベラルーシのシーンで最も興味深い奇人」とカイエ・デュ・シネマが評したことで知られるNikita Lavretskiの新作は、ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ」をベラルーシ社会に写像した内容である。英雄であるオデュッセウスを中年男ブルームに置き換えるといった「ユリシーズ」における対応を本作でも試みており、ダブリンをミンスクに置換するのは当然として、ユダヤ人をルカシェンコ大統領の個人秘書に置換していたりする。オープニングでは1967年に制作されたジョセフ・ストリック『ユリシーズ』のタイトルを引用する。マーテロー塔の前で撮影され、タイトルが出てくるのだが、そこにNikita Lavretskiの刻印で上書きする。彼自身の「ユリシーズ」を紡ぐ宣言をしてから映画は始まるのである。
映画が始まると非常に粗いフィルムの質感とクローズアップの中で『ある夏の記録』を彷彿させるインタビューを行っていき、ベラルーシ社会の鬱屈した空気を掬い上げていく。これを5時間近く行った後、音楽を主軸とするパートへ移り、ベラルーシのバンドからビートルズ「レット・イット・ビー 」といった音楽を白黒/カラー交えながら描いていく。音楽が鬱屈した社会への憂さ晴らしとなっている様が表象されていく。
本作の中心となる人物にはRuslan Zgolichがいる。Cineuropaのインタビューによれば彼は政治犯として2022年から精神病院に入れられている。本作では彼が精神病院に入れられる前に作られたVlogを取り入れている。
また、ルーマニアの鬼才ラドゥ・ジューデ監督と対談していることからもわかる通り、『アンラッキー・セックス またはイカれたポルノ』や『世界の終わりにはあまり期待しないで』、『Sleep #2』などといったインターネットメディアを映画に取り込むことで社会の心理地図を描き込もうとするアプローチに近いものが『Ulysses』から感じさせる。
Vlogというミクロな視点。食卓で延々と雑談をしている様子から社会を捉えていく。587分という時間は観客に苦行を強いるが、ベラルーシ社会が抱える息苦しさを追体験させるには必要な時間だったといえよう。