それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!(2025)
監督:橋本敏一
出演:戸田恵子、蒼井優、パンサー、中尾隆聖、山崎静代etc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
XのTLでは『F1』でもちきりとなっているが、私は済東鉄腸さんとコルトンプラザでアンパンマンの最新作『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』を観てきた。コロナ禍も落ち着いてきたためか、劇場に集まる子どもたちを楽しませるため、入場者特典としてマラカスが配布され、冒頭ではみみせんせい率いる軍団によるミニライブが行われた。今回も興味深く観た。
『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』あらすじ
絵本作家やなせたかしが生み出した、子どもたちのヒーロー、アンパンマンの活躍を描くアニメ「それいけ!アンパンマン」の劇場版36作目。アンパンマンに憧れてヒーローを夢見るようになった男の子チャポンの物語が描かれる。
いつものようにパトロールをしていたアンパンマンは、空から落ちてきた不思議な男の子チャポンと出会う。自分がどこから来たのかわからないチャポンは、アンパンマンたちと一緒に過ごす中で、誰かを助け笑顔にする喜びを知り、自分もヒーローになりたいと願うようになる。アンパンマンを兄のように慕うチャポンだったが、そんな彼の出生の秘密を知るばいきんまんが現れ、チャポンは衝撃の真実を知ってしまう。
チャポン役の声優を蒼井優が務めた。そのほか、お笑いトリオ「パンサー」(向井慧、尾形貴弘、菅良太郎)や「南海キャンディーズ」のしずちゃんもゲスト出演。
大人の責任としての物語の返却
前作『ばいきんまんとえほんのルルン』が映画クラスタの間でも注目され、上半期のベストに入れる方がいるほどに熱い内容となっていた。この手の成功体験を経ると、ドラえもんシリーズのように大人向けな内容へと転がってしまうのだが、アンパンマンの良いところは大人向けのシリアス回があったとしても、通常回へ軌道修正する体制となっているところだ。そのため、昨年のノリで観ると牧歌的で素朴な内容に物足りなさを抱くのかもしれない。しかし、王道の話を愚直にやることが子ども映画の中では大切である。そして、アンパンマン映画を網羅的に観ていくと、小さいながらも高度な技術が用いられていることに気づかされる。
まず、オープニングではデルポイの劇場のような場所で口承文学的にみみせんせい率いる軍団がアンパンマンの物語を演じる。歌や踊り、分かりやすいセットを通じて英雄譚をフィクショナルに語り継ぐのである。そこへばいきんまんが登場、助けを呼ぶと、彼がやってくる。フィクションから現実の物語となり、民の記憶へと刻み込まれていく。
神話や宗教が人々を導くために継承されていくメカニズムをたった10分程度で描いてみせる。そこには一切の無駄はない。無駄は幼児に退屈をもたらすからだ。実際に映画館へあつまる子どもたちは配布されたマラカスを振りながらアンパンマンの物語を受容していた。
さて、本作は『ハピーの大冒険』『りんごぼうやとみんなの願い』に近いアンパンマンOJT回である。空から降ってきたチャポンは端から落下するSLマンを助けるアンパンマンに憧れる。そこで、OJTとして彼に密着する。だが、SLマン落下事件でみせた竜巻のようなスペクタクル的支援をなかなか魅せないので不満を抱く。これはハピーやりんごぼうやがヒーローに憧れるも、その実態が地味で、かといって当の本人は仕事ができるわけでもない。その理想と現実のギャップに苛立つ。だが、チャポンはハピーやりんごぼうやと異なり、現場に適用する。ここに意外性がある。
実は『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』の本題は別のところにある。それは「何のために生まれて」が呪いになった場合、いかにして自分の進むべき方向を定めるかである。チャポンはばいきんまんが製造した「アンパンマン絶対にやっつける号」だったのだ。つまり、憧れであるアンパンマンを倒すことが使命。残酷な現実を突き付けられたチャポンは葛藤し、アンパンマンとどのように折り合いをつけるのか模索していく。
察しの通り、終盤ではアンパンマンと連携して戦うこととなるのだが、このエフェクトに力が入っている。チャポンの生み出すヌルヌル動く流体にアンパンマンを乗せて、まるで孫悟空のように強敵ドロダンダダンへ立ち向かう。流体は水のアーチを創り出し、空から降って来る泥の雨を弾き飛ばす。そして、雨が形成する流体は紐となり、ドロダンダダンを縛っていくのである。
メロンパンナやカレーパンマン、しょくぱんまんたちが連係プレーで足止めしたようにチャポンも足止めの要因として役に立ちアンパンマンの支援に成功するのである。この場面の意外性あるアクションには新規性がある。単に既存の物語を再生産するのではなく、フレームの中でチャレンジングな試みをしているのである。
そして、30代管理職的な仕事が増えてくる中で、アンパンマンが窮地に立たされても威厳は保ち、部下を不安にさせないように振る舞う様は見習わないと思わずにはいられなかった。
※映画.comより画像引用