ある王子(2023)
Un prince
監督:ピエール・クルトン
評価:10点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第6回映画批評月間にてカイエ・デュ・シネマベストに選出された『ある王子』を観た。本作はアラン・ギロディ作品に近い、ゲイ映画の側面から映画哲学を見出すタイプの介品であり今後のピエール・クレトン作品を観ないと全体像が掴めない厄介さを孕んでいる。
『ある王子』あらすじ
「カイエ・デュ・シネマ」2023年ベストテン第8位労働者階級が住む地区ボワ・デュ・テンプに、引退した兵士が住んでいる。彼が母を埋葬しているその時、団地のギャング団に属している隣人のベベが、裕福なアラブの王子の護送車を襲撃する準備をしていた…。「なんて壮大な犯罪映画なんだ、と上映を終えてあなたは感嘆とともに口にするだろう。しかしその壮大さは、あなたが期待するような偉大な 「ネオノワール 」のような作品には似ていないからであり、より正確に言えば、内側から作り直され、地理的・社会的文脈に即し、芸術的気質に従ってそれが再定義されているところにある」―ジャック・マンデルバウム(「 ル・モ ンド 」)イート・ザ・ナイト Eat the night(2024) ©ATELIER DE PRODUCTION – AGAT FILMS & CIEピエール゠ジョゼフは庭師になるため、訓練見習いセンターに入る。そこで彼は、校長のフランソワーズ・ブラウン、植物学の教師アルベルト、雇い主アドリアンなど、さまざまな人物と出会う。彼らは皆、ピエール゠ジョゼフの見習い時代に決定的な役割を果たし、セクシュアリティを解き放っていく。そして40年の月日が経つ…。「『ある王子』は、人間から動物まで、風景から花々まで、生者の生命が死者の生命を迎え入れ、交じり合い、微笑み合う喜びの園、発明された共同体を称揚し、勇気づけられる哲学的ユートピアである」―ジェラール・ラフォール(『 レ ザン ロ キュプ ティーブル 』)
※第6回 映画批評月間より引用
なんだ、その7つの陰茎は!?※ネタバレ
庭師になるために訓練見習いセンターへ入るピエール゠ジョゼフを中心に物語られるのだが、映画は複数の視点から散漫とした語りによって全体の輪郭が形成される。つまり、個の物語として観るのではなく、群を通じて映画に脈打つ哲学を捉える必要がある。
映画はナレーションを主軸とする。その中で、紙に文書を書く、インドでの体験が文化人類学映像的なフィルムの質感で捉えられたりする。文章や映像が遅効性のメディアであることを強調するようにナレーションが用いられているのである。その中で3人の男がセックスに明け暮れたり、突発的な死が訪れる。ドライに事象を並べる。まるで植物の生態を観察するように人間の行為を捉えるのがコンセプトのようだ。
事象の羅列に徹する本作だが、1か所だけ映画的虚構に迷い込む場面がある。それは男の陰茎が7つに分裂して誘惑する場面である。あからさまに露悪的なスペクタクルに衝撃を受けるわけだが、あれだけ真面目に理論を積み上げてきて突然露悪に走るのはナンセンスであり、それをゲイ映画の文脈でやるのは正直ドン引きである。それまで、興味深く難解な理論に付き合ったのがバカバカしくなるほどに酷い映画であった。