Resan (The Journey)(1987)
監督:ピーター・ワトキンス
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
一般的な映画の枠で最長だといわれている『Resan (The Journey)』は、『The War Game』でも魅せたピーター・ワトキンスの巧みな編集により14時間全く飽きさせない驚きに満ち溢れた作品である。この驚きのひとつには、日本での取材パートが大半を占めていることにある。その内容は原爆被爆者や戦後を生きる子どもたちに戦争の記憶がどのように継承されていくのかといったものとなっている。
『Resan (The Journey)』概要
A global look at the impact of military use of nuclear technology and people’s perception of it.
訳:核技術の軍事利用の影響と人々の認識を世界規模で考察します。
※IMDbより引用
日本が舞台なのに日本未公開の戦争取材ドキュ
しかし、本作は日本未公開なのである。確かにこれほどの長尺であれば映画祭や特集上映に留まっているのかもしれない。可能性としてありえるのは山形国際ドキュメンタリ映画祭だろう。そこで、山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーに問い合わせを行ったところ、日本パートを撮影した金徳哲(キム・ドッチョル)監督の『渡り川』や『河を渡る人々』は山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたものの、『Resan (The Journey)』の上映実績はないと回答をいただいた。
ここで大にして語りたいのは、日本人こそこの作品を観るべきなのである。川崎に住んでいる老人宅を訪れ取材する。人々がゴロゴロと転がり、焼けただれた人が「アメリカが憎い」と迫って来る生々しい記憶が語られる。一方で、戦争のトラウマは学校では教えてくれないらしく「教科書でどれだけ原爆のページについて割かれていますか?また、先生はどれだけ原爆の話をしますか?」と取材する場面があるのだが、ほとんど授業で扱わないし、先生はすぐその話を終わらせる。映画は社会が適切に戦争の悲惨さを伝えてない様を告発していく。それはアメリカでも明らかとなりソ連を敵国としてメディアがアイコン化していったがために、本当のソ連人がわからないといったことが若者こ口から発せられる。
日本人として注目すべき点はほかにもある。原爆ドームの前で男が証言する場面がある。原爆ドームの周りには40件もの慰霊碑があるのだが、朝鮮人に対するものはない。何故建てないのかと、問い合わせたところ「景観が悪くなるから」といった非論理的な回答が返ってきたとのこと。
1996年に原爆ドームは世界遺産に登録されたのだが、その際に中国は世界遺産登録の決議自体には反対しないものの以下の声明を出し、決議書に付記された。
第二次世界大戦中、アジア各国、及びその国民たちは侵略や虐殺などのつらい歴史を経験してきた。しかし、現在においても、その事実を否定し続ける人が、少数であるが存在する。このような状況の中、稀有な例といえるかもしれないが、広島平和記念碑の世界遺産登録が、前述のような少数の人たちによって悪用されないとも限らない。当然、このようなことは、国際平和の維持に良い効果をあげるものではない。
※「すべてがわかる世界遺産1500(上巻) 世界遺産検定1級公式テキスト」p238より引用
日本の場合、遺産を説明する際に負の側面を隠蔽する傾向がある。軍艦島こと端島炭坑が世界遺産登録される際に朝鮮人の強制徴用に関する説明を明記する約束を交わしたにもかかわらず一向に明記されなかったことで批判された。
また、佐渡島の金山が世界遺産に登録される際に北沢浮遊選鉱場は構成遺産から外す形での登録となった。これはICOMOSからの勧告を受けて、江戸時代の金銀山の採掘技術に関する構成遺産に絞ったことによるものであるが、北沢浮遊選鉱場が第二次世界大戦中に朝鮮人を強制労働させていた問題により中国や韓国から「世界遺産登録に相応しくない」と批判を受けていた点も要因としてある。構成遺産から外すことで、このような批判から免れ世界遺産登録を確実なものとする政治的な意味合いが強い。実際に2025年5月に北沢浮遊選鉱場を訪れたのだが、朝鮮人を強制労働させていた説明はなかった。
ピーター・ワトキンスのドキュメンタリーを観ると、歪められ、あるいはなかったかのようにして伝えられる歴史を前に我々はいかにして後世に歴史を伝えていけばよいのか考えさせられる。『Resan (The Journey)』は今からでも遅くないので、日本でも観られる機会が設けられることを願いたい。