The End(2024)
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
出演:ティルダ・スウィントン、マイケル・シャノン、ジョージ・マッケイ、モーゼス・イングラム、ブロナー・ギャラガーetc
評価:40点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『アクト・オブ・キリング』の監督が10年ぶりに映画を作ったと話題となったのだが、それが問題児収容所でお馴染みサン・セバスチャン国際映画祭送りとなり「あっ察し……」となる。
とはいえ、10年前フランス留学中にアンジェの映画祭”Festival Premiers Plans d’Angers”での『ルック・オブ・サイレンス』上映回でジョシュア・オッペンハイマーに質問した身としては思い入れのある監督だったので観てみた。なるほど、これは結構重症だ。
『The End』あらすじ
After decades alone, a wealthy family living in a salt mine encounters a stranger.
訳:数十年もの間孤独に暮らしていた岩塩鉱山の裕福な家族が、見知らぬ人に遭遇する。
アクト・オブ・キリングの監督10年ぶりの新作がSFミュージカルだった件
環境破壊により人類が地上で暮らせなくなった世界。ブルジョアの一族は鉱山の奥地に領土を作り、20年近く暮らしていた。そんなある日、鉱山にて黒人の少女を見つけ、秩序が少しずつ乱れていく。
てっきり、コロナ禍を描いた作品なのかなと思ってインタビュー記事を調べたのだが、構想自体は前からあったらしい。インドネシアをフィールドワークしていた際に、シェルターを所有する男と出会う。その男が車より価値があるからと高級時計を纏っている様から国の腐敗度を現地民の腕時計で図れるのではといったアイデアが生まれ、本作にも反映されているとのこと。
とはいえ、本作のプロットはサブスクやレンタルビデオ屋の片隅に佇んでいるチープなSFサスペンスであり、90分程度で終わるような内容をミュージカルにしてしまったがために2時間半近い長尺となっている。ジャンル映画的な大きな事件も少なく、登場人物は多いわりに関係性のエピソードがどれも面白さを感じずかなり厳しいものがあった。
一方で2点興味深い点がある。
まず1点目は、ロケーションが良い点だ。鉱山の中で撮影が行われているのだが、崖の対岸からロングショットで撮られるように手数が多く、鉱山空間にワクワクドキドキ感を与える演出は冴えていた。
また、このブルジョワ一家は絵画作品を多数所有しており、たとえばクロード・モネの「散歩、日傘をさす女性」が飾ってあるのだが、明らかに贋作っぽい、いや観光地で売られているお土産用贋作絵というよりかはAIに描かせたような人工的な色味となっていた。また、アルバート・ビアスタットのような映え風景画が多数展示されていることから、ホンモノの景色、かつて自分たちが暮らしていた地上への羨望。そして長い時間が経ってしまい、ホンモノとはかけ離れているが、当人はそれを本物と見なして祈りを捧げる表象となっていたのが興味深かった。
タルコフスキーが『惑星ソラリス』でブリューゲル「雪中の狩人」を引用し望郷を表現した演出の応用例ともいえる描写には唸らされた。とはいえ、初長編監督でSFミュージカルは無理しすぎである。