来し方 行く末(2023)
原題:不虚此行
英題:All Ears
監督:リウ・ジアイン
出演:フー・ゴー、ウー・レイ、チー・シー、ナー・レンホア、ガン・ユンチェンetc
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第36回東京国際映画祭でダークホース映画として称賛された『耳をかたむけて』が『来し方 行く末』と詩的なタイトルとなって公開された。本作はクリエイターの苦悩を優しく包み込むような作品であった。
『来し方 行く末』あらすじ
脚本家として成功するという夢にやぶれた男性が弔辞の代筆業を通じて成長する姿を描いた中国発のヒューマンドラマ。
大学院まで進学したものの脚本家デビューがかなわなかったウェン・シャンは、不思議な同居人シャオインと暮らしながら、葬儀場での弔辞の代筆業で生計を立てている。丁寧な取材に基づいた弔辞は好評だが、本人は中年に差しかかる年齢で、このままで良いのか自問自答していた。同居していた父親との交流が少なかった男性や、ともに起業した友人の突然死に戸惑う会社員など、さまざまな境遇の依頼人との交流を通して、ウェンの中で止まっていた時間がゆっくりと進みはじめる。
「鵞鳥湖の夜」のフー・ゴーが主演を務め、「西湖畔に生きる」のウー・レイが同居人シャオイン役で共演。中国インディペンデント映画界の俊英リュウ・ジャインが監督・脚本を手がけ、人々の人生模様や死生観を織り込みながら描きだす。2023年・第25回上海国際映画祭にて最優秀監督賞と最優秀男優賞(フー・ゴー)を受賞。第36回東京国際映画祭では「耳をかたむけて」のタイトルで上映。
※映画.comより引用
他者の人生をなぞると自分の人生が回り始める
大学院に進学し脚本家を目指すも挫折し、弔辞の代筆業をしながら悶々としている男を扱う変わった作品。アンニュイな間延びした時間を包み込むようなフレーミングが美しく、風呂の場面ひとつとっても一目見たら忘れられない構図となっている。
ウェン・シャンは脚本家として行き詰っており、自分の人生から何も生み出せなくなっている。そんな彼が他人の人生を追体験する弔辞の代筆をしているのが興味深い。親族は知っているようで、関係性が近いからこそ自分の思うビジョンが先行してしまう。ウェン・シャンは亡くなった人はどのような人生を歩んでいたかを整理し、時に関係者と対立しながらも人生を編み込んでいる。その中で自分の中に物語が生まれていき、再び筆が動き始める。これはまさしくクリエイター賛歌であろう。悩んで書いては消し書いては消し、リライトした先に自分の世界が見える瞬間が描かれており、創作の美しい世界を普段創作しない人に伝わる形で描き切っているので好感を抱いたのであった。