『メイデン』痕跡を追い、不吉から逃れ

メイデン(2022)
The Maiden

監督:グラハム・フォイ
出演:ジャクソン・スルイター、マルセル・T・ヒメネス、ヘイリー・ネス、カレブ・ブラウ、シエナ・イー

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

個性的なインディーズ作品を配給するクレプスキュール フィルムの新作『メイデン』が予告編の時点から凄まじいオーラを放っていたのでシアター・イメージフォーラムへと向かった。アンニュイ日常系だと思ったら、物凄い怖いものを兼ね揃えたホラー映画であった。

『メイデン』あらすじ

孤独と喪失感にさいなまれる思春期の少年少女のひと夏の出来事を、16ミリフィルムによるみずみずしい映像美でつづったカナダ発の青春映画。

カルガリー郊外に住む高校生のカイルと親友コルトンは、スケートボードで住宅地を駆け抜けたり渓谷で水遊びをしたりと、気ままな日々を送っていた。夏休みが終わりに近づいたある日、立入禁止の鉄道線路に侵入したカイルを悲劇が襲う。新学期が始まってもその事実を受け止めることができないコルトンは、深い喪失感にかられながら、以前カイルと一緒に戯れた渓谷へ足を運ぶように。その頃、同じ高校に通うホイットニーが行方不明になる。偶然にもコルトンが渓谷で拾った彼女の日記帳には、学校での人間関係に悩む彼女の切実な思いがつづられていた。

カナダの新鋭グラハム・フォイが長編初監督・脚本を手がけた。2022年・第79回ベネチア国際映画祭のベニス・デイズ部門にて「未来の映画賞」を受賞。

映画.comより引用

痕跡を追い、不吉から逃れ

カイルとコルトンは美しきカルガリーの地でアンニュイな刻を楽しむように彷徨っていた。自分たちがいた証を刻むように至る所に《Maiden》と落書きをしていた。そんなある日、線路に侵入したカイルが事故で亡くなってしまう。

本作は、人がいた記録としての落書きや落とし物を通じて逃れられぬ過去との距離感を繊細に紡いでいく。カイルを失ったコルトンは、悲しみを癒すように彼と遊んだ橋の下へと向かう。スクリーンを飛び出してきそうなほどマイナスイオン溢れる絶景であるが、その絶景の中で悲劇が起こっているため、コルトンは心理的逃げ場を失ってしまう。どうしようもない感情をぶつけるように、石ころを川へ、通り去る列車へぶつけている。落書きは、自分たちがいた記憶を記録するものだが、同時にいつまでも厭な思い出も留まり続ける。コルトンは、その場所に残留する負の気を払うように、落ちている靴を筏で流してあげたりしている。

この手の映画では新しい人間関係が救済したりするのだが、本作はかなり危ういものがある。学校でともだちの輪へ加わるも、すぐに気分が悪くなってしまう。学校という場所自体がカイルとの思い出刻まれた場所だからだ。しかも、よりによって突然、死の予感が襲い掛かったりするのである。喧嘩したチャラ男とは、親密な関係になるものの、行方不明になった女子高生の記憶のパートが始まってから、不穏な空気が立ち込めるのである。

当事者としての記録/非当事者としての記録が物質を介し映像詩として編み込まれる。と同時に、とてつもなく怖いものが映っていて背筋が凍る。たとえば、女子高生ホイットニーが森で花を観る場面があるのだが、明らかに花が出す液体じゃないドロッとしたものが滴るのだ。それに対する説明はなく、死の予感だけが続いていくのだ。あまりにも美しく、あまりにも強烈な世界観にノックアウトされたのであった。

ちなみに、本作の会話を観るに、恐らくゲーム「UNDERTALE」からの影響がうかがえる。チャラ男とコルトンの会話にどこかサンズの面影を抱いたからである。

※映画.comより画像引用