『愛をたむけるよ』葛藤の波は気持ち悪い間合いの深層を捉えきれず

愛をたむけるよ(2019)

監督:団塚唯我
出演:金澤卓哉、鶴田理紗、団塚唯我、五十嵐勇、岡田深、日向子、和田華子

評価:20点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

カンヌ監督週間2025に史上最年少で作品を出品することで話題となった団塚唯我監督。彼の過去作を調べたところU-NEXTにて短編映画『愛をたむけるよ』が配信されていたので観た。

『愛をたむけるよ』あらすじ

14年前に母を亡くした三戸兄弟は東京の小さなアパートに二人で暮らしている。ある日、兄の佑介は母に良く似た女性木下菜月と運命的な出会いを果たす。弟の章大はその様子をアパートのベランダからじっと見つめている。

※Filmarksより引用

葛藤の波は気持ち悪い間合いの深層を捉えきれず

少年と母親が玄関前を行ったり来たりする。母親は虚ろな瞳で外を見つめ「薬を買いに行く」と言う。「こんな時間に薬局やっているの?」と不思議がる少年をよそに彼女は出かけていく。

映画は数年が経つ。大人になった兄弟の貧しく暮らす姿が映し出される。母は薬を過剰摂取して亡くなり、トラウマを抱えながら今を生きているのである。そんなある日、兄は飛び降りをしようとしているような女性を呼び止める。母と似た面影を感じた彼は、不器用ながらも食事に誘う。

インディーズ映画にありがちな閉塞感ものであり、正直かなり粗削りな内容である。母の面影を追う兄とそれを見つめる弟の関係性が全く活かされておらず、男と女の心理的距離感の魅せ方にも難がある。

冒頭で、玄関前を行ったり来たりする波の運動による葛藤こそは興味深く観たものの、最近、成瀬巳喜男『乱れ雲』における、加山雄三に視線を合わせないように、でも距離感は維持し続ける司葉子の運動を観てしまっているので、気持ち悪い間合いがただ気持ち悪いだけとなってしまっている感が否めない。恐らく、女性側の背景が希薄なことで男性をケアする存在としての女性像に牙を向けるだけに留まってしまったと思われる。本作では、心理的距離感を演出するためにスプリット・スクリーンが用いられているが表層的なしように留まっており、せめて濱口竜介映画のように長回しで横から撮影し、会話の空気感が変わる決定的瞬間を収める演出だったら良かったのかなと思ってしまった。

本作から6年が経ち、どのように化けたのか気になる所である。