【ネタバレ】『片思い世界』最初の30分は良かったけれど

片思い世界(2025)

監督:土井裕泰
出演:広瀬すず、杉咲花、清原果耶、横浜流星、小野花梨、ムーンライダーズ、伊島空etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

TLで賛否が分かれている『片思い世界』を観てきた。確かにネタバレ厳禁な作品かつ、ネタバレ部分を覗いたら何も話せないタイプの作品であった。なぜならば、最初の30分に大ネタがある作品だからだ。その30分が面白かった一方で問題も多い作品であったため、ネタバレありで語っていく。

『片思い世界』あらすじ

「花束みたいな恋をした」「怪物」の脚本家・坂元裕二と「ラストマイル」「わたしの幸せな結婚」の監督・塚原あゆ子が初タッグを組み、オリジナルストーリーで描いた恋愛映画。

結婚して15年になる夫を事故で亡くした硯カンナ。夫の駈とはずっと前から倦怠期が続いており、不仲なままだった。第二の人生を歩もうとしていた矢先、タイムトラベルする手段を得たカンナは過去に戻り、自分と出会う直前の駈と再会。やはり駈のことが好きだったと気づき、もう一度恋に落ちたカンナは、15年後に起こる事故から彼を救うことを決意する。

主人公カンナを松たか子、夫・駈をアイドルグループ「SixTONES」の松村北斗が演じ、研究員の駈のことを気にかける大学教授・天馬市郎役でリリー・フランキー、駈に恋心を抱く天馬の娘・里津役で吉岡里帆、カンナと共に働く美術スタッフ・世木杏里役で森七菜が共演。

映画.comより引用

最初の30分は良かったけれど

合唱部の部屋で少女がお芝居を書いている。おなかの虫が鳴き始めたのを察し、少年はコンビニへと向かう。彼の姿を探して少女はあたりを見渡すが、部室は人で満たされていく。リハーサル前に集合写真を撮ろうとなり、撮影が始まる。扉が開き、群れは左を向く。映画はそれから10年後となる。広瀬すずが家路へと向かう。その際に、様々なフラグが目の前を通り過ぎる。ぬいぐるみ、バスケットボール。それらを彼女は意図的に無視するのだ。その理由については触れられることなく、3人の女性の日常が始まる。広瀬すずはバスに乗る男が気になっているようだ。清原果耶が大胆にも彼女をサポートし、コンサート会場でガールフレンドと思しき人物といちゃつく彼を監視する。ヒッチコック『見知らぬ乗客』を彷彿とさせる大胆な動きで、至近距離に迫るも、誰も二人どころか群衆も気が付かない。しまいには、コンサート中の舞台に上がっても誰も気にしないのだ。実はこの3人は10年前に殺害された者の霊体だとわかるのである。現実世界にほとんど干渉できない3人だったが、あることをきっかけに干渉できるレイヤーへと移動できる手段を知る。

最初の30分こそヒッチコック『見知らぬ乗客』における気持ち悪い間合いを応用したような手法に惹き込まれたのだが、観客を信用していない説明台詞によって3人の死を語ってしまう場面から雲行きが怪しくなる。

映画の尺として足りないのか、3人の「片思い」エピソードが雑に処理されていく訳である。特に杉咲花、清原果耶パートに問題がある。遺族の母親と出所した犯人が対峙する展開がある。遺族にとって延々に犯罪者のことを赦せないものが残る。しかし、倫理的に死刑は問題である。ひとりの人間として彼は釈放され、人間社会を歩むこととなる。その際に遺族はどのように感じるのか。また犯罪者はどのように罪を背負いながら人生を歩むのか。そのような葛藤が描かれるはず。しかし、映画は遺族の復讐をトリガーに再び惨劇へ転がる流れを生み出し、その過程で交通事故というデウス・エクス・マキナによって事態を収束させるのである。死刑は倫理的に問題だが、交通事故で重体を負わせれば復讐は安全に達成される。これは快感ではあるが、フィクションが行える手法として問題から目を背けた悪手だといえよう。

また、結局中途半端な要素として終わってしまったラジオの展開。恐らく坂元裕二は『オーロラの彼方へ』をやりたかったと推測される。無線によって30年前と繋がり現状を変えようとする様が酷似している。本作の構造自体は『ファーストキス 1ST KISS』にも通じるものがあることから、『オーロラの彼方へ』を念頭に脚本を作っている可能性が極めて高いのである。ただ、今回は結局その要素が活かされることなく終わってしまっていたので残念であった。想像以上に面白かった一方で問題も多い作品であることは否めない。
※映画.comより画像引用