『勇者に休息なし』夢の綻びとしての穴

勇者に休息なし(2003)
Pas de repos pour les braves

監督:アラン・ギロディ
出演:トマ・シュイール、トマ・ブランシャール、ローラン・ソフィアティetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

日仏学院で開催された「アラン・ギロディ&アルノー&ジャン=マリー・ラリユー特集 欲望の領域」にてアラン・ギロディ『勇者に休息なし』を観た。アラン・ギロディの作品は一貫して行為の中断を軸に置いているイメージがあるのだが、本作はその文脈から少し離れた場所にある作品であった。

『勇者に休息なし』あらすじ

青年バジルは夢で「ファフタオ・ラポ」を見たことを語る。それは最後から二番目の眠りでその後に死が訪れる徴だという。お金がなく退屈している学生イゴール、ジャーナリストで探偵で(?)、かなりのごろつきジョニー。それぞれ境遇は違いながらも、ふたりはバジルの打ち明け話に強く惹きつけられ、姿を消してしまったバジルの行方を追うことに…。
「白昼夢のような映画を創り出すギロディは、故郷のフランス南西部の土地を、遊び心をもって映画的な場所へと変化させていく類まれな才能を持っている。」(ジャン=ミシェル・フロドン「カイエ・デュ・シネマ」)

夢の綻びとしての穴

最後の眠りから2番目の夢を観た後、死が訪れる「ファフタオ・ラポ」とエンカウントしたバジルは失踪する。彼の行方を追う中でいつしか白昼夢へと迷い込むといった話。

夢を映画で表象する際に「綻び」の存在が重要だと考えている。これはヴォイチェフ・イエジー・ハス『砂時計』における廃墟に存在する空間の穴が夢のシームレスさを表現していることに由来している。夢を観る者は、そこに違和感があれども無意識の内に受容し、シームレスに時空間を超えていく。それは自分の記憶に起因し生成される。それを映画で表現する際に、違和感に気づく観客と受容する登場人物の関係を描くことが重要だといえる。本作では見事に「綻び」を作り込んでいる。

本作は虚実曖昧な世界でありながら、夢の世界には綻びが存在する。たとえば、車でバーへ移動する場面。急ブレーキがかかると、フロントから投げ出される。通常、車にはフロントガラスが備わっているはずである。それがない。車から投げ出されているにもかかわらず、何事もなかったかのようにバーへ入り狂乱の渦へと巻きこまれる。このバーは数十分前に登場したものであり、過去の経験が夢を生成する様をも体現している。知っている場所なはずなのに、敵に追われると迷宮のような廃墟空間へと迷い込む。これこそが夢の表象である。

同様に、長回しで飛行機の離陸を捉えるも、飛行機は飛ばずに店へはいる。するとそれはハリボテの空間で椅子やカウンターが自然の中に置かれた違和感のあるバーが広がっている。だが、男は気にせず喚き散らす。

このようにセット/ロケーションの妙で夢を描き続ける意外なアラン・ギロディ像に惹き込まれたのであった。