赤線玉の井 ぬけられます(1974)
監督:神代辰巳
出演:宮下順子、蟹江敬三、清水国雄、前野霜一郎、河野弘、丘奈保美、織田俊彦
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
神保町シアターの特集上映「映画で紐解く――花街、色街、おんなの街」にて神代辰巳監督の伝説的日活ロマンポルノ『赤線玉の井 ぬけられます』が上映されていると聞きつけ、会社帰りに寄ってみた。どこかでショーン・ベイカーが『ANORA アノーラ』を制作する際に日活ロマンポルノを観たという話を見かけたのだが、もし本当なら本作を観たに違いないと思うほど類似性を感じる作品であった。
『赤線玉の井 ぬけられます』あらすじ
これは昭和三十三年の新春を迎えて、いよいよもうすぐ(この年四月一日より売春防止法施行)赤線よおさらばというころの、”東京玉の井”の特飲街に働く売春婦たちの哀歌を描く「赤線シリーズ」大作である。
原作は清水一行の「赤線物語」で、脚本・監督とも、いまや映画界の話題を独占している神代辰巳。出演者も宮下順子、丘奈保美、芹明香、中島葵、絵沢萠子、吉野あいといったいままで、神代作品のなかで好演、名演、熱演を示してきた女優陣、殿山泰司、江角英明、蟹江敬三、益富信孝、前野霜一郎、高橋明らの芸達者の男優陣をそろえている。
また、この作品のタイトル画、風俗考証などには、このほど文春漫画賞を受賞した漫画家滝田ゆうがこれにあたって作品の重厚さを加味している。
今を生々しく生きる人々
布団から男女がもぞもぞと朝最後の肉体関係を結んでいる。男は「もう9時だ」と立ち上がり、着替えて店を後にする。見送った彼女は階段を上り布団へと戻る。クローズアップと長回しで赤線の世界を描いていく。本作は『ANORA アノーラ』同様、クローズアップをメインの撮影とすることで半径数メートルの世界しか見ていない「今」しか生きていない者たちを描いていく。
男と結ばれ赤線を去る者、ヒモ男を愛し売り上げのほとんどを渡しては博打に薬物へ消えていき暴力を振るわれながらもなお男に縋りつく者、売春宿の新記録を打ち出そうと躍起になって男と寝まくる者などの生活がモザイク状に切り取られていく。
本作ではユニークなことに滝田ゆうが劇中漫画を手掛けている。要所要所に、風俗画が差し込まれていくのだ。通俗だがキャッチー。でもよくよく漫画を観ると、子どもが父親の酒を飲んで昇天していたり、君が代のリズムに当てはめるように「父はヒロポンで死んだ」と物騒なことが描かれている。漫画は高速で捲られることによってアニメとしてのアクションを宿し、セックスが描写される。通俗でデフォルメされた画に対して、実写パートでは生々しい性産業を描いていくのである。この漫画/アニメ/実写の構図は慧眼といえよう。
また、映画は性産業の資本主義たる側面も暴き出す。回転率を上げるために火鉢で股を温めるテクニックを親父から教わるも、そんなのはズルだとバカにしていた売春婦が、新記録を打ち立てるために途中から火鉢作戦を決行する場面がある。ビジネスのためなら回転率を考える必要があり、その中でゲスい手法も取り入れなければならない悲しさが描かれているのである。