パティーとの二十一夜(2015)
21 NUITS AVEC PATTIE
監督:アルノー・ラリユー、ジャン=マリー・ラリユー
出演:イザベル・カレ、カリン・ヴィアール、アンドレ・デュソリエ、セルジ・ロペス、ドニ・ラヴァンetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
日仏学院で開催された「アラン・ギロディ&アルノー&ジャン=マリー・ラリユー特集 欲望の領域」にてラリユー兄弟の『パティーとの二十一夜』を観た。少し催眠的な内容でありながら、ユニークな観点で性欲を掘り下げた一本であった。
『パティーとの二十一夜』あらすじ
盛夏。キャロリーヌは疎遠であった母が亡くなったと報せを受け、パリから南仏の小さな村に赴く。母が遺した家に着くと、管理人のパティーが出迎えてくれた。ふたりで散歩に出かけるが母の話もそこそこに、パティーは自分の性生活を赤裸々に語りはじめ、奥手のキャロリーヌは唖然とするばかり。そんな不思議な出会いのなか、母の遺体が消えてしまう…。森の中のミステリアスな事件というラリユー兄弟らしい設定に、欲望に臆病なキャロリーヌの心の揺れが絡み、エロスとタナトスへのおおらかな賛辞に満ちた大人のコメディドラマである。どこか現実離れした空間を構築するラリユー・ワールドに加え、大人と子供の顔を併せ持つキャロリーヌ役のイザベル・カレ、あけすけな言動が爆笑を誘うカリン・ヴィアール、そして抜群の安定感で作品に奥行きをもたらすアンドレ・デュソリエなど、フランスを代表する芸達者たちの競演も見ものである。サンセバスチャン国際映画祭コンペティション出品作品。
死体の肉体/霊体を通じた性欲について
母の訃報を聞き、田舎町へやってきたキャロリーヌ。しかし、母の遺体は突如消滅してしまう。屍姦目的だろうか。そんな中、彼女には霊体が見えるようになっていき、心がざわついてくる。
本作は、死体における肉体と魂の観点から性欲を掘り下げていく内容となっている。死体には魂はないが肉体は存在する。会食では、屍姦についての議論が行われ、冗談交じりに屍姦に晒されたいと語られる。セックスは、互いの意志によって行われるものであるが屍姦は一方的なものである。それは霊体に対する感情の揺らぎに近いとラリユー兄弟は定義する。我々の内面で滾る欲情がアクションを通じて実体化するのである。だから、霊体に気づくキャロリーヌに対して周りは気づかないのだ。また、屍姦と一般的なセックスを比較することにより、欲望がアクションとして共鳴する様が強調される。
このロジックはアリストテレスにおけるデュナミス/エネルゲイアの関係に近いだろう。欲望が表に出ていない状態から実行へと映し出されていく状態を捉えることにより、形而上の観点から欲望のメカニズムを解き明かしたといえよう。