『ミサイル』ほんとにあった『トップガン マーヴェリック』な世界

ミサイル(1987)
Missile

監督:フレデリック・ワイズマン

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

年末にフランス版フレデリック・ワイズマンBOXを購入した。しかし、アメリカ国内で行方不明となり、手に入れることはできなかった。一番の目当てである『ミサイル』は有識者曰く専門用語が多いらしく、日本語字幕推奨と聞きつけ、急遽フレデリック・ワイズマン有休を使ってアテネ・フランセに駆けつけた。これが今のところワイズマンベスト級に好きな作品であった。

『ミサイル』あらすじ

カリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地で行われる、ICBM(大陸間弾道ミサイル)打上げ管制センターに配属される空軍将校の訓練を記録している。戦略航空軍団第4315訓練艦隊に焦点を当て、核戦争についての道徳的・軍事的議論や、ミサイルの装備、発射、暗号、通信、テロリストの攻撃からの防衛、緊急体制等に関する講義や訓練、職員会議、個人指導などが描かれる。

※アテネ・フランセより引用

ほんとにあった『トップガン マーヴェリック』な世界

本作はカリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地、ICBM(大陸間弾道ミサイル)打上げ管制センターに配属される者たちの14週間の記録である。最初に、教官が「ここは空軍の中でも最も厳しいとされる部署だ」と語り、マイケル・サンデル白熱教室を彷彿とさせるディスカッションが始まる。いつ、核ミサイルを撃つことになるかわからない。下手すれば配属初日に究極の選択を迫られる可能性がある。配属されてから心を構えるのでは遅すぎるのだ。配属されるまでにある程度の覚悟を決めておく必要があるのである。その異様な光景は、まさしく『トップガン マーヴェリック』で観たあの光景であった。実在していたのである。

大勢の犠牲が伴う。撃つ場合も、断片的な情報から適切に判断する必要がある。ヒューマンエラーが発生しないように徹底的にシステム化されている。たとえば、ICBMを発射する際には2拠点の合意シグナルを通す必要がある。だが、万が一中止する場合には1拠点の判断でできる。また、リスク分散のために、各拠点は5km以上離れているのだが、万が一拠点が1か所しかない状態でICBMをを発射する際には、機材を入れ替えることで2つのシグナルを送った扱いにできるのだ。システムエンジニアとして常に属人化させない、ミスの発生を低減する、有事に対する事前処理を考えていく仕事をしている私にとって感動するほどに洗練された仕組みであった。

講義も、空軍最難関とはいえ、「落とすための教育」ではなく「有事にて冷静に対応できる人材育成」に力点が置かれているため、教官との距離は非常に近い。分からないことがあれば、電話で聞くことができる。メンバー同士も蹴落とし合うのではなく、協力して試験合格を目指していく。心理的安全性を確保することで、形骸化した複数人体制に陥らない仕組みとなっていて、ここでも緻密な教育プログラムが垣間見える。極めつけは、落第しそうになった生徒に対し、教官が会議を開き、どうすれば合格するか議論していく点であろう。その結果、受験テクニック講座が開かれるのだが、これがまた面白い。

「今から渡す問題は、試験問題作成のプロが作った一般常識の問題だ。ミサイルは関係ない。読んでみろ。」

と教官は語る。

1問目は「コメディとは何か?」を答えさせる4択問題なのだが、ひとつだけ明らかに長い文章となっている。どうやら、迷ったときには説明が長いものを選ぶと良いらしい。

2問目では、成人男性の歯の本数を答えさせる問題が出題される。この場合、最大値、最小値の選択肢を省き、2択に絞ってから答えるのが定石とのこと。

「ドラゴン桜」ばりの授業に思わず笑ってしまった。

また、本作では意外な収穫がある。ソフトボール試合の場面が映るのだが、試合の流れより、試合がもたらす高揚感を掬いあげ、束の間の休息を表現している。この場面を観て『Eephus』のカーソン・ランド監督がフレデリック・ワイズマンを俳優として起用したきっかけとなった作品なのではと思った。

有給取って観に行って本当によかった。

P.S.何の説明もなしに大火事の場面が映っていたのだが、あれはなんだったんだろう?