お嬢と番犬くん(2025)
監督:小林啓一
出演:福本莉子、ジェシー、宇藤啓弥、杉本哲太etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『殺さない彼と死なない彼女』『恋は光』で知られる小林啓一監督の新作が男性アイドルを起用した青春キラキラ映画『お嬢と番犬くん』と聞きつけ、『ロングレッグス』捨てて観にいった。丁寧な作風として認識しているだけに、この一歩間違えればコンプライアンス的に炎上しそうな題材を華麗に調理しており、安定感ある作家だと感じた。
『お嬢と番犬くん』あらすじ
講談社「別冊フレンド」にて2018年より連載され、23年にはテレビアニメ化もされたはつはるによる人気コミックを、「今夜、世界からこの恋が消えても」の福本莉子と男性アイドルグループ「SixTONES」のジェシーの共演で実写映画化した恋愛コメディ。
幼くして両親を亡くし、瀬名垣組組長である祖父のもとで育てられた瀬名垣一咲。極道一家の孫という立場から友だちができなかったことがトラウマになっている彼女は、高校ではその素性を隠して普通の恋と青春を送ることを決意する。しかし一咲の世話役を務める瀬名垣組の若頭・宇藤啓弥は、過保護すぎるがゆえに年齢詐称して同じ高校に裏口入学し、一咲の“番犬”としてボディガードをすると宣言。一咲はそんな彼に戸惑いながらも、憧れの高校生活を守りぬこうと奔走するが……。
瀬名垣組の兄弟分である田貫組組長の孫で、一咲や啓弥と同じ高校に転入してくる田貫幹男役に、実写版「【推しの子】」の櫻井海音。「恋は光」の小林啓一が監督を務め、「ハケンアニメ!」の政池洋佑が脚本を担当。
ショーン・ベイカーがもし青春キラキラ映画を撮ったなら
本作はヤクザである祖父に引き取られた瀬名垣一咲が「普通の青春を送りたい」一心で徒歩1時間の高校に入学するのだが、お世話係の26歳ヤクザ宇藤啓弥が同級生として潜伏しているといった内容。SixTONESジェシーの背が高くて、威圧感のある風貌は独特な怖さを醸し出しており、たばこを取り出せば、一気に高校生から20代男性へと早変わりする。その大胆さを軸とする宙吊りのサスペンスが形成される。
本作を観た時、ショーン・ベイカー『レッド・ロケット』や『ANORA アノーラ』の面影を感じた。キラキラした世界でコーティングされつつも、その横には凄惨な暴力が横たわっているギャップの怖さ。その点で共通するものがあるのだ。実際、本作を観るとトリガーアラートレベルのレイプ未遂事件が描かれている。学級委員会のミーティングでLINE好感した相手からカラオケに誘われて足を運ぶも、そこはヤリサーのような空間となっており、やさ男だと思っていた相手が性欲に溺れた野郎だと気づき狼狽する。そこへ、ジェシーが現れ制裁を下すのである。
ヤクザの怖さを正義として扱う捻りが興味深いのだが、他にもジェシーが壁ドンをする場面がある。序盤の雰囲気からすれば、彼が女子に壁ドンするとコンプライアンス的にまずい。だが、青春キラキラ映画において壁ドンは伝統芸能だったりする。ではどうやってそれを実現するのか?男に対して使用するのである。こうしたアップデートのきめ細かさがあって安心して最後まで観ることができた。
また、本作は漫画的ショット、つまりカット割りに力を入れている。確かにクローズアップの多用で映画らしさは希薄だったりするのだが、文化祭演劇の「ロミオとジュリエット」配役を巡るじゃんけんの結果を、落ち込む3人の女学生のショットを挟むことによって、まるでページを捲って結果を確認する漫画的感覚が表現されている。これは良いと思った。
※映画.comより画像引用