『DV2 ドメスティック・バイオレンス2』分かった気になっていて全く分かっていない家庭内暴力の世界

DV2 ドメスティック・バイオレンス2(2002)

監督:フレデリック・ワイズマン

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

アテネ・フランセのフレデリック・ワイズマン特集で『DV2』を観た。本作は家庭内暴力を司法がどのように扱っているのかを捉えたドキュメンタリー2部作の後編である。前編は日程が合わず観ていないのだが、2から鑑賞しても全く問題ないとのことだったので観た。これが常識を覆すような内容であった。

『DV2 ドメスティック・バイオレンス2』概要

前作が被害者救援施設を舞台としたのに対し、本作ではDVが裁かれる法廷に舞台を移す。当事者同士の接触を避けるため、加害者はモニターに映し出されるだけの法廷。何組もの被害者と加害者が登場し、次々に様々なDVの審理が進められる。延々と映し出されるいくつもの裁判。法廷審理から彼らの人生とドラマが浮かび上がる。

※アテネ・フランセサイトより引用

分かった気になっていて全く分かっていない家庭内暴力の世界

家庭内暴力と聞くと、モラハラ夫による暴力を連想とする。最初の場面では、夜道、警察から事情聴取受けている夫婦が描かれている。てっきり、夫が暴力を振るったのかと思っていると妻が暴力を振るったらしく、最終的に彼女は手錠を掛けられ連れていかれる。夫は「ヒーロー気取りってわけじゃないけれど、妻を逮捕するなら俺を逮捕しろ」と語るも拒否される。

それ以降は、ずっと法廷となる。囚人服を来た人が、フロアに集められ、モニター越し事務処理的に事情聴取をしていく場面から始まる。やがて、夫婦が一堂に会し、弁護士、検察、裁判官が言い分を聞く。しかしながら、客観的に観て、双方の言い分は矛盾だらけで真相が全くつかめない。接触禁止だと通達しているにもかかわらず、夫婦は数日一緒に過ごしていたりするのだ。最初は、「会っていない」と語っていても、数秒後にはがっつり会っているのだ。いくら最初に宣誓させても、容易に裏切られる中で裁判官は結論を出さないといけないのである。

あまりの異様さから、事務処理的に作業する裁判官もうんざりしてきて「こんな環境で子ども育つ確率0よ」「安心したまえ、接触したら二人とも逮捕な」といったフィクションでしか聞かないようなボヤキが吐露されるのである。そう、実は本作はワイズマン作品の中でもトップクラスにインスティテューショナルな笑いに満ちた作品で、実際に劇場でも気まずい笑いと抑えきれない笑いに包まれ、「笑ってはいけない家庭裁判所」となっていた。

ただ、これは家庭内暴力における支配がもたらす認知の歪みによるものだと考えている。モラハラ、パワハラが起きている環境に身を置くと、自分を守ろうとするが故に事実よりも自分が作り上げた真実を優先する傾向がある。これは自分も経験したことがある。事実を言えなくなってくるのだ。だから、本作で次々と矛盾が明らかになってくる様は、どちらかが認知の歪みを引き起こしているSOSなのである。そう考えると全く笑えないのだが、それでも笑ってしまう場面があり、ワイズマンは実に怖い監督だと思った。