THAT SUMMER IN PARIS(2025)
Le rendez-vous de l’été
監督:Valentine Cadic
出演:Blandine Madec, India Hair
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第75回バルリン国際映画祭ではEncounters部門がなくなったかわりにPerspectivesが新設された。新しい才能を発掘する部門らしいのだが、会期中はコンペティション部門以上に評判が高いと話題となった。その中で上映された『THAT SUMMER IN PARIS』を観た。2024年のパリオリンピックを題材とした作品である。これが良かった。
『THAT SUMMER IN PARIS』あらすじ
France, August 2024, and the Olympic Games are in full swing. Thirty-year-old Blandine arrives in Paris to watch the swimming competitions, reunite with a half-sister she has not seen in ten years and meet her young niece for the first time. Blandine has come from Normandy, where she has grown accustomed to peace and solitude. In Paris, she finds herself immersed in the hustle and bustle of a city where different rules seem to apply. As the days go by, she meets new people, gets lost, hesitates, picks up old threads, establishes new ones and, eventually, finds her way back to herself. Blandine drafts a new map for her spirit and soul as she navigates her way through the heart of a city completely dominated by this extraordinary event.
訳:2024年8月のフランス、オリンピックが盛り上がっている。30歳のブランディーヌは、水泳競技を観戦し、10年ぶりに会った異母妹と再会し、幼い姪に初めて会うためにパリに到着する。ブランディーヌはノルマンディーからやって来た。そこでは、彼女は平穏と孤独に慣れていた。パリでは、彼女は異なるルールが適用されているように見える街の喧騒に浸っている。日が経つにつれ、彼女は新しい人々と出会い、道に迷い、躊躇し、古い糸を拾い上げ、新しい糸を確立し、最終的に自分自身に戻る道を見つける。ブランディーヌは、この特別なイベントに完全に支配された街の中心部を進むにつれて、自分の精神と魂のための新しい地図を描きます。
※第75回ベルリン国際映画祭サイトより引用
巴里物語
通常、バカンス映画はパリから地方へベクトルが向いているわけだが、珍しく本作はパリへと向かう。2024年パリオリンピックの水泳種目を観戦しに、また異母妹や幼い姪に会うためにパリへとやって来る。しかし、オリンピックのパリは喧騒としている。折角、会場へ入ろうとするもトラブルが発生し、警備員に冷たい態度を取られる。都会は人こそ多いが、どこか他者に関して無関心で親密さが生まれないような空間となっている。それでもブランディーヌはオリンピックを楽しもうとする。
本作は一見すると何気ないバカンスを切り取った作品のように思えるが、その実態は辛辣であり、恐らくValentine Cadic監督は小津安二郎『東京物語』をベースにしていると思える。ブランディーヌは『東京物語』の東山千栄子と原節子を足して二で割ったような振る舞いをしており、悟ったような優しい目つき、語りをしながらも、その端々に陰りが見えてくる。
そんな彼女の葛藤は姪との会話の中で明らかにされる。
「独りなの?」
と聞く姪に対し、失恋の話が語られる。彼女はキャロリーヌと付き合っていたのだが、子どもが欲しいキャロリーヌに対し、ブランディーヌは不要だと考えていたがために別れることとなったのだ。
そんな彼女の前に、様々なチャラ男が現れる。でも我々は彼女の語りから、その構図のグロテスクさを、チャラ男の薄っぺらさに心ざわつくのだ。その冷たくハリボテな都会像をゆるいアンニュイとした空気感で包み込むValentine Cadicの切れ味に痺れた。