『Broken Rage』その武、滑稽につき

Broken Rage()

監督:北野武
出演:ビートたけし、浅野忠信、大森南朋、仁科貴、宇野祥平etc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年のヴェネツィア国際映画祭に選出された北野武中編映画『Broken Rage』がプライム・ビデオにて配信されたので観た。ヤクザコメディ映画だと聞いてあまり期待していなかったのだが、これが面白かった。

北野武が監督・脚本およびビートたけし名義で主演を務め、「暴力映画におけるお笑い」をテーマに型破りな演出で撮りあげた実験作。約60分の映画を前後半に分け、前半は警察とヤクザの間で板挟みになった殺し屋の奮闘を活写する骨太のクライムアクション、後半は前半と同じ物語をコメディタッチのセルフパロディで描く。

男たちの欲望渦巻く裏社会で、殺し屋としての並外れた能力を武器に暗躍する男・ねずみ。ある日、殺人容疑で警察に捕まった彼は罪を見逃してもらう代わりに、覆面捜査官として麻薬組織に潜入するよう命じられる。

ねずみに捜査協力を依頼する刑事役で浅野忠信と大森南朋、麻薬売買を取り仕切るヤクザの親分役で中村獅童、若頭役で白竜、謎の司会者役で劇団ひとりが共演。人気ピアニストの清塚信也がオリジナル楽曲を手がけた。Amazon Prime Videoで2025年2月14日から配信。

映画.comより引用

その武、滑稽につき

本作は、まず前提となるヤクザ映画を展開し、そのパロディを後半で演出する構成となっている。前半パートでは『その男、凶暴につき』のオマージュとなっていることが、殺しを実行し逃走するビートたけしを坂の上で映す反転のショットでわかる。北野武映画における殺しは、どんなに強面なヤクザも死ぬときは一瞬といった恐怖と滑稽の表裏一体で描かれる。実際に、本作における殺しは狡猾冷徹なスタイリッシュさがあり、最初のターゲットは部下を射殺したうえで撃ち抜いている。車から降りてくるターゲットも間髪入れずに撃ち抜き、驚いたヤクザ事務所の親分に対し「ポケットを見ろ」と指示。そこに銃があることから、この男の眼差しの鋭利さが際立つ。かと思えば、日常へ戻るとだらしないおじさんのように見える。このデジタルな空気感の入れ替えに面白さを感じる。一方でスピンオフでは、コメディアン・ビートたけしとしての姿が確認できる。前半の冷徹さと反対に、徹底して間抜けを貫き通す。そして、突然画面が暗くなり「時間調整」とテロップが表示されることに対しメタツッコミが入る。その中には「たけしの挑戦状」でおなじみ「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」に近いメッセージが観客に投げつけられる。この意図的な滑り倒しは評価の分かれ目であろう。個人的に、滑り倒しているもののショットはキレッキレなままである点は重要だと思っている。たとえば、カフェで警察に逮捕される場面。ビートたけしは椅子につく。カメラがパンをするとギャグ漫画のような警察の群れが待ち構えている。カフェに入った瞬間に気づくだろうと思うのだが、カメラのパンによって現実から虚構へとシームレスに遷移していくさまは、前半パートのパキッと虚実が入れ替わる構図との対比構造となっており興味深く観た。

※映画.comより画像引用