『ハイパーボリア人』虚実曖昧さとしてのストップモーションアニメ

ハイパーボリア人(2024)
原題:Los hiperbóreos
英題:The Hyperboreans

監督:クリストーバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
出演:アントニア・ギーゼン

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『オオカミの家』で一躍注目されたクリストーバル・レオン&ホアキン・コシーニャの新作『ハイパーボリア人』が公開された。『オオカミの家』で長編アニメを作る意欲を失っていたふたりだったが、コロナ禍で試行錯誤する中、アイデアが浮かび映画となったとのこと。実際に観ると、前作以上に難解な映画ではあったものの、彼らがストップモーションアニメを選び続ける意味は十分汲み取ることができた。

『ハイパーボリア人』あらすじ

「オオカミの家」で世界的に注目を集めたチリの監督コンビ、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャの長編第2作。主演俳優アントーニア・ギーセンやパペット姿のレオン&コシーニャ監督が実名で登場し、チリ現代史の暗部やナチスドイツをモチーフに、実写やコマ撮りなどさまざまな手法を駆使して描きだす。

女優で臨床心理学者のアントーニア(アント)・ギーセンは、幻聴に悩まされているというゲーム好きの患者を診察する。アントからその話を聞かされた友人の映画監督レオン&コシーニャは、幻聴の内容が実在したチリの外交官・詩人でヒトラーの信奉者でもあったミゲル・セラーノの言葉だと気づき、これをもとにアントの主演映画を撮ろうと提案。アントはセラーノの人生を振り返る映画の撮影を始めるが、いつしか謎の階層に迷い込み、チリの政治家ハイメ・グスマンから、国を揺るがすほどの脅威が記録された映画フィルムを探すよう命じられる。

レオン&コシーニャ監督による2023年製作の短編「名前のノート」が同時上映。

映画.comより引用

虚実曖昧さとしてのストップモーションアニメ

ストップモーションアニメは物理制約を受けながらもセルアニメに近い極めて虚構的運動を実装していく表現方法といえる。クリストーバル・レオン&ホアキン・コシーニャは一貫して、メディアにおける虚構性に着目してきた監督であり『オオカミの家』『骨』はファウンドフッテージの体裁で、偽の映像を構築していった。その中にはチリ社会のバカげた虚構的政治や暗部を捉えようとする向きがある。今回の『ハイパーボリア人』は臨床心理学者がヒトラー信者であるミゲル・セラーノの面影を追う中で、ミイラ取りがミイラになるがごとく陰謀論的世界へ迷い込む様を風刺しているように思える。臨床心理学者は冷静沈着に患者の言葉を分析し正しい方向へと導こうとするのだが、気が付けば「UNDERTALE」のような空間に身を置き、それ自体に疑いを持たず物語のコマとして扱われてしまうのである。

本作は実写メインでありながらもストップモーションアニメに近い虚構的運動が実装されている。たとえば、アントーニアが紐を引っ張る。引っ張られた方向からオブジェクトが出てくるのかと思いきや対岸からオブジェクトが現れるのである。これは既に彼女が現実だと思っているものが、フレームの外側からすると虚構に満ちていることを示唆している。そしてRTAがごとく爆速でコンテクストが飛ばされていき、グリッジによってショートカットしながら70分駆け抜け、気が付けば終わっている。それを目の当たりにした我々はどこか興奮を抱えることになるのだが、それはスペクタクルが持つ危険性であるとクリストーバル・レオン&ホアキン・コシーニャは言いたげに幕が降りる。今回もまた興味深い一本であった。

※映画.comより画像引用