『映画を愛する君へ』有害なノスタル自慰

映画を愛する君へ(2024)
原題:Spectateurs!
英題:Filmlovers!

監督:アルノー・デプレシャン
出演:ルイ・バーマン、ミロ・マシャド・グラネール、サム・シェムール、サリフ・シセetc

評価:0点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

アルノー・デプレシャンの新作『映画を愛する君へ』、タイトルからして厭な予感がしていたのですが、先日参加した映画呑み部で『SHOAH』の話をしているよと聞いてしまったもんだから観ないわけにもいかずヒューマントラストシネマ有楽町へ行ってきた。てっきりドキュメンタリーだと思っていたら、ドラマパートもついている俺的映画史映画であった。

『映画を愛する君へ』あらすじ

フランスの名匠アルノー・デプレシャンが自身の映画人生を投影しながら、映画の魅力を観客の視点から語り尽くした自伝的シネマエッセイ。

「そして僕は恋をする」「あの頃エッフェル塔の下で」でマチュー・アマルリックが演じたポール・デュダリスを主人公に、初めて映画館を訪れた幼少期、映画部で上映会を企画した学生時代、評論家から映画監督への転身を決意した成人期を、19世紀末の映画の誕生から現在に至るまでの映画史とともに描きだす。本編には映画史に功績を残した50本以上の名作が登場し、デプレシャン監督が尊敬するアメリカの哲学者スタンリー・カベルやフランスの批評家アンドレ・バザンの言葉も引用しながら“映画とは何か”をひもといていく。

主人公ポール役には成長に合わせて4人の俳優を起用し、マチュー・アマルリックが本人役で出演。「ママと娼婦」のフランソワーズ・ルブランが祖母、「落下の解剖学」のミロ・マシャド・グラネールが14歳のポール、「みんなのヴァカンス」のサリフ・シセが30歳のポールを演じた。

映画.comより引用

有害なノスタル自慰

まず、本作はリュミエールの映画から『ダイ・ハード』といった往年の名作をミキサーに入れて雑にかき混ぜた後に、自分語りと共に皿へ盛り付けるトンデモノスタル自慰映画であった。序盤に、絵画と比較しながら「これは映画が生まれてから映画的構図を参考にして描かれた」としたり顔で語る場面から始まるのだが、いやいや絵画史において映画の前からそういうのはあっただろう。バキバキに決めた風景画なんてグランドツアーが流行した17~18世紀に存在していたし何を言っているんだと不審に思う。

そして、いろんな人が映画の思い出を雑に語り、やがてデプレシャンの学生時代の思い出が展開される。映画も観ていないのに『ひなぎく』をぶっつけ本番でシネクラブ上映しようとする話は面白いけれども、雑にギー・ドゥボールのスペクタクル論を語る展開は、ギー・ドゥボールの研究を少ししていた身としてはキレそうになった。

そして何故か『SHOAH』だけ丁寧に丁寧に語る場面が挿入される。カイエ・デュ・シネマによれば2年前ぐらいにフランスでクロード・ランズマン回顧が行われたとのこと。恐らく、本作もその時期と撮影が重なっていたため、やたらと『SHOAH』について語っているのだろう。それにしてもイスラエル外務省からの依頼で『SHOAH』が作られている事実には驚かされた。プロパガンダじゃんと。そして、イスラエル/パレスチナ問題が激化する中で『SHOAH』について慎重に再考する必要がある。確かに映画ではホロコースト当事者の生々しい証言が語られているわけだが、今イスラエルがやっていることはどうなんだと。そういったことはデプレシャンは考えず、ただただ「衝撃を受けた」「この映画は凄い」としか言っておらず、サイテーな映画だなと思ったのであった。

恐らく2025年ぶっちぎりのワースト映画だろう。
※映画.comより画像引用