リアル・ペイン 心の旅(2024)
A Real Pain
監督:ジェシー・アイゼンバーグ
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、キーラン・カルキン、ウィル・シャープ、ジェニファー・グレイ、カート・エジアイアワンetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ジェシー・アイゼンバーグ長編2作目『リアル・ペイン 心の旅』を観た。東京国際映画祭の時にいかにもアカデミー賞狙ってますよ感で選出されていたものの、イマイチノミネートされるオーラを感じられなかったのだが、現在キーラ・カルキンが助演男優賞、ジェシー・アイゼンバーグが脚本賞にノミネートされている。『ブルータリスト』という強豪がいるものの、ジェシー・アイゼンバーグに脚本賞を受賞してほしいと思うほどに素晴らしい作品であった。
『リアル・ペイン 心の旅』あらすじ
「僕らの世界が交わるまで」で監督デビューを果たした俳優ジェシー・アイゼンバーグが監督・脚本・製作・主演を務め、第97回アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞にノミネートされたロードムービー。
ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドと、兄弟のように育った従兄弟ベンジー。現在は疎遠になっている2人は、亡くなった最愛の祖母の遺言によって数年ぶりに再会し、ポーランドのツアー旅行に参加することに。正反対な性格のデヴィッドとベンジーは時に騒動を起こしながらも、同じツアーに参加した個性的な人たちとの交流や、家族のルーツであるポーランドの地を巡るなかで、40代を迎えた自身の生きづらさに向きあう力を見いだしていく。
アイゼンバーグがデヴィッド、テレビドラマ「メディア王 華麗なる一族」のキーラン・カルキンが従兄弟ベンジーを演じ、第82回ゴールデングローブ賞で助演男優賞を受賞。第97回アカデミー賞でも助演男優賞にノミネートされた。共演は、「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」の監督としても知られる俳優ウィル・シャープ、「フェリスはある朝突然に」のジェニファー・グレイ。「僕らの世界が交わるまで」に続いて俳優のエマ・ストーンが製作に名を連ねた。
情報の羅列に埋もれた痛みについて
祖母の遺言に従ってポーランドのホロコーストツアーへ参加することとなったデヴィッドとベンジー。神経質なデヴィッドに対し、寅さんがごとく豪快なベンジーとポーランドへ赴く。ベンジーはヒトの心理領域へ土足で踏み込み、デヴィッドは常にハラハラしているのだが、彼は気が付けばツアーの中心に立つ愛されキャラとなっている。そんな彼にはある辛い過去が隠されていた。
昨年は『関心領域』『占領都市』とホロコーストに関する重要な作品が2本公開された。しかし、どちらもコンセプトが重視され過ぎた頭でっかちな内容となっており、観客の想像を超えるものがなかった。あまりにも一般常識で凄惨すぎる「ホロコースト」。それについて語られると人は無意識に「知っている」領域に収まろうとしており、本来さらに知るべき側面が希釈されてしまうような問題がある。『リアル・ペイン 心の旅』はクソツアー客を通じて我々の盲点に語り掛けてくるのだが、その語りが実に鮮やかで圧倒される。
重要なカギを握るのはベンジーだ。彼は、ツアー客同士の自己紹介でルワンダ紛争から逃れるようにカナダ・ウィニペグへ転がり込みユダヤ教へ改心した男の話に対し失礼な接し方をする。そのことにデヴィッドは申し訳なさとこれ以上失礼を犯さないかといったハラハラを抱えているのだが、彼自身はどこか冷笑的でルワンダの男から信仰の話を振られた時に「ユダヤ教って胡散臭くない?」とナチュラルな失礼を働く。対してベンジーは「ホロコーストツアーだぜ、万物に悲しんでいられないってバカか?今、悲しまなきゃいつ悲しむってんだ?」とデヴィッドに言い放ったり、ツアーガイドにまで噛みついて「君は博識だ。でも目の前を見ろ!歴史は情報の羅列ではない。」「80年前に多くのユダヤ人が暴力や飢餓にさらされながら強制収容所へ連れられているのに、俺らは一等車に乗って強制収容所へ向かっている。おかしくないか?」と叫ぶ。正直、正論を叫んでいながらも連日のように寝坊するし、降りる駅を間違えて迷惑ばかりかけるベンジーはクソ客でしかないのだが、フィクショナルな空間でこのクソ客を置くことにより、観客の不快心を煽り、デヴィッドのツッコミを通じて我々が無意識に持っていた高慢さに気づかせるものとなっているのだ。
ジェシー・アイゼンバーグ、こんな激重寅さんを撮れるんだと感心してしたのであった。
※映画.comより画像引用