『メイクアガール』「彼女を作る」言説について

メイクアガール(2025)

監督:安田現象
出演:種﨑敦美、堀江瞬、増田俊樹、雨宮天etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2025年も引き続きアニメ映画に面白い発見があると感じているので、洋画以上に何も調べないで観に行くようにしている。TLでチラッと「クローネンバーグ映画みたい」といった感想が流れてきたので観に行った。たまにある、全編ネジが外れたようなイカれた作品であったのだが、実はエンジニアや研究者心理の本質、そしてなによりもタイトルにある「彼女を作る」言説に関してユニークなアプローチで迫る作品とみた。

『メイクアガール』あらすじ

個人制作の短編3DCGアニメやミュージックビデオなどで高く評価されてきた新進気鋭のアニメ作家・安田現象が、全編フル3DCGで制作した初の長編アニメーション。2020年・第29回CGアニメコンテストで入賞した短編「メイクラブ」をベースに、天才科学少年と彼が創りだした人造人間の少女が織りなす物語を予測不能な展開で描く。

現在より少しだけ先の未来。人々の生活をサポートするロボット「ソルト」を開発・製品化することに成功した17歳の天才科学者・水溜明は、新たな発明が失敗続きで行き詰まりを感じていた。そんな中、クラスメイトから“カノジョ”を作ればパワーアップできるという話を聞いた明は、人造人間のカノジョ「0号」を創りだす。順調に恋を育んでいくかのように思えた明と0号だったが、いつしか0号はプログラムされた感情と成長していく気持ちの狭間で葛藤するようになり……。

「SPY×FAMILY」の種﨑敦美が0号、「僕の心のヤバイやつ」の堀江瞬が明の声をそれぞれ担当。

映画.comより引用

「彼女を作る」言説について

ロボット開発に行き詰まっていた水溜明が、クラスメイトから「おれ、彼女できたんだ。お前も作れよ。パワーアップするよ。」と言われる。恋愛に全く興味のなかった明だったが、「パワーアップする」言動に惹かれ、《物理的》に彼女を作った。「0号」と呼ぶ人造人間に、社会性を身に付けようと学校に通わせたり、バイトさせたりしながら、母の遺した暗号を解読するようにロボット開発するのだが、全くもってパワーアップしない自分に苛立っていく。一方、「0号」に異変が生じてくる。

本作は、「彼女を作る」言説にある「所有」の側面に迫った作品だ。クラスメイトは「彼女を作った」というが、その彼女とどのような関係にあるのかといった掘り下げが全くない。スマホ画面で提示される、姿しか映し出されない。そして、いつの間にか別れて気分が落ち込んでいるのだが、そこには「彼女」個人の考えなどは一切反映されない。明は一見すると、物理的に彼女を作る異質な存在に見えるが、両者とも「親密さ」とはかけ離れた所有の眼差しを向けているだけに留まっている。このことから「彼女を作る」言葉にある、相手をヒトとしてではなくモノとして扱ってしまう様が浮き彫りになってくる。荒唐無稽なSFであるが、ツッコミどころを通じてこの問題を捉えようとしているところに惹きこまれた。

同様に、あれだけ開発に沼っていた明が終盤で「0号」の重要性に気づき裸足で街中を駆け回る無敵さは、エンジニアが突然覚醒し脳汁が炸裂する高揚感、心象世界を反映しているようで味わい深いものとなっている。ロボットの名前も暗号用語の「ソルト」から恐らく来ていることを考えると、実はそこまで変な映画ではないと思うのだ。

無論、あれだけの災害を起こしていながら、社会は明を無視し続ける異様なセカイ系描写や「0号」をサクッと作ってしまった時点で、あのロボット開発に頭を悩ませる描写に違和感が出てしまうなど問題はあれども悪くはないだろう。