【MyFFF】『まじめな仕事』学級崩壊寸前な教室で

まじめな仕事(2023)
原題:Un métier sérieux
英題:A Real Job

監督:トマ・リルティ
出演:ヴァンサン・ラコスト、フランソワ・クリュゼ、ルイーズ・ブルゴワンetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

MyFFFにてトマ・リルティ監督新作『まじめな仕事』を観た。トマ・リルティといえば、フランス映画界の中で屈指の厭な職場空間を描くのに長けていて。『ヒポクラテスの子供達』ではイキり研修医の痛々しさを描き、『Première Année』では強烈な倍率、課題に追われる医大の辛辣な人間模様を描いていた。監督自身、医者であることから等身大のドラマを生み出すのに長けていた。新作『真面目な仕事』では、医療業界から一歩引き、中学校の教育現場へと眼差しを向けた。そして例に漏れず、これもヒリついたものとなっていた。

『まじめな仕事』あらすじ

新学期が始まった。中学で教えるピエール、メリエム、フアド、ソフィー、サンドリーヌ、アリックス、ソフィアンは仕事熱心で団結している仲間だ。そこに代替教員として派遣されたバンジャマンが加わる。若く経験もない彼は、すぐに問題にぶち当たるが、仲間と接することで、バンジャマンは脆い教育機関の中において、どれほど教育への情熱が根付いているのかを知る。

※MyFFFより引用

学級崩壊寸前な教室で

前半は、様々な教員の授業風景を通じて学級崩壊しかけている教室を解剖していく。中学生は、勉強なんか退屈であり、楽しいことを求めがちだ。それが先生へ向くと、ふざけた態度となって現れる。窓を閉めるかどうかで授業が中断したりするのだ。男の先生は厳しい態度で生徒と接し、治安を維持していた。学校では定期的に審査が入る。審査員が実際に生徒たちと一緒に授業を受けて、内容や生徒とのコミュニケーションの度合いを採点するのである。この女性教師は、普段から授業は荒れがちで、上手く制圧することができない。この審査では、生徒たちは比較的おとなしくホッと胸をなでおろすも、「正直、あんたの授業は退屈だったよ。生徒とコミュニケーションが取れていませんね。あなた自身、退屈に感じているでしょ。」と見事に生徒との壁を撃ち抜かれ、泣き出しそうになる。

そんな中、生徒が先生の自宅まで行き脅迫する事件が発生する。これにより聴聞会が開かれる。聴聞会は、公平を期すため、教員人、保護者代表、生徒代表、当事者が集まって状況説明や議論を交わす。そして、最後に投票で民主的に処分を下す。聴聞会は非常に重い。基本的に生徒は退学することとなる。しかし、教育機関として生徒を追い出すことが正しいのか?フランスのシステム上、学校を退学するとその後の人生に大きな影響を与えるらしく、なるべく穏便に済ませようとする派が一定数いる。しかし、一方で当事者に近い程、内なる復讐心もあり、議論の中で「わからせたい」といった言葉が飛び出す。この生々しさ、流石トマ・リルティだと思った。教員という職業は特殊であり、生徒にいかになめられないかが重要となってくる。一旦、なめられると授業の進行が困難になるからだ。労働を経験したことがない子どもたちにとって教員はある種フィクショナルな存在なのかもしれない。だから、学級崩壊を引き起こしたり、教員をイジメて鬱にさせた経験がある者が大人になると自分たちがやった過ちに戦慄するのである。教育実習に行った身として興味深く観たのであった。