ギル(2024)
Gill
監督:アン・ジェフン
評価:50点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第37回東京国際映画祭で上映される『ギル』がトンデモ映画らしい。五次元アリクイさんとKnights of Odessaさんによる東京国際映画祭作戦会議にて、Letterboxd評を読んだのだが、ほとんどのレビュアーが★1の低評価をつけており、アヌシーで観た観客が自分の持てる限りの文才で本作のヤバさを物語っていた。これは観るしか!とペドロ・アルモドバルを捨ててまで観てQ&Aまで参加したのだが、その理由がなんとなく分かった。実は本作のターゲット層は映画ファンでもアニメファンでもなく、韓国芸能とBLファンだったのだ。ゆえに、映画やアニメの文脈で観ると見えないものがある一本といった評価が適切だったのだ。
『ギル』あらすじ
川に落ちた女性を助けたのは、エラを持つ青年だった。青年の正体を追う彼女は、やがてその数奇な人生を知ることになる。少年時代、父親と心中することになった彼は、水の中でエラを持ち、生き延びることになったのだった。小説家ク・ビョンモの同名小説をアニメーション化。『Green Days~大切な日の夢~』(10)のアン・ジェフン監督最新作。
※第37回東京国際映画祭より引用
専門的なBL映画
本作は日本アニメタッチの空間から始まる。営業が上手くいかなかったのか、主人公の女はヤケになり、『ポンヌフの恋人』ごっこを夜道でする。しかし、ジュリエット・ビノシュのような体幹はないので、川へ落ちそうになる。ここで珍妙な宙吊りのサスペンスが発生する。スマホが、縁に落ちる。それを取り、橋へ戻ろうとする。バスが通る。バスが暴走して轢かれる状況では全くないのだが、何故かその光にビビって彼女は落下するのだ。そして、そんな彼女を人魚が救う。
映画は突然、その人魚の物語へとシフトする。川から人魚を救った家族。科学者に人体実験されるからと少年は匿い、何年も共に過ごすといった内容。『ギル』は全体的に脚本が取っ散らかっており、挿話と挿話との繋がりが雑に処理されているわけだが、どういうことだろうか?人魚と少年(青年)との絡みだけが緻密なのである。人魚のことを想って助けている少年は青年になると、彼のことを想いつつも暴力で支配しようとする。殺したいけど生きてほしい複雑な感情が渦巻く。そんな彼に対して人魚は服従を選ぶ。ここで気づく、「これは本格的なBLなんだ」と。BLといったら受けと攻めの関係性が重要だと聞いたことがあったのだが、本作にて味わい深い受けと攻めの濃厚な駆け引きを目の当たりにした。
Q&Aにて監督が制作背景を話してくれた。『ギル』は元々小説の映画化であり、監督だけが手描きであとはWebtoonを意識したデジタル処理を行っているとのこと。そして、スタッフの大半は女性であり、人魚と青年はBTSメンバーやとある韓国俳優を意識したと語ってくれた。やはり、BL文脈の作品であり韓国芸能のカップリングありきな内容だったのだ。
そのため、本作の正当な評価は韓国芸能×BLの専門家評によってなされるのである。鈴鹿詩子×でびでび・でびるのBL講座レベルの知識では全く太刀打ちができない内容ながら、これはこれで面白い映画体験であった。