『侍タイムスリーパー』虚構となった現実を受け入れる侍

侍タイムスリーパー(2023)

監督:安田淳一
出演:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今、『カメラを止めるな!』の再来として話題となっているインディーズ映画『侍タイムスリーパー』がある。あまり知られていない監督や俳優の作品にもかかわらず、口コミで評判が伝播し、ついにはTOHOシネマズ系での拡大公開が決まったのである。私も噂は聞いており、観たかったのだがタイミングが合わなかったところ、TOHOシネマズ日本橋で上映されていたので行ってきた。なんと大きな7番スクリーンがアサインされており、そしてレイトショーにもかかわらず結構人が入っていた。そんな『侍タイムスリーパー』のレビューをしていく。

『侍タイムスリーパー』あらすじ

現代の時代劇撮影所にタイムスリップした幕末の侍が時代劇の斬られ役として奮闘する姿を描いた時代劇コメディ。

幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門は家老から長州藩士を討つよう密命を受けるが、標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。新左衛門は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、がく然とする。一度は死を覚悟する新左衛門だったが、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していく。やがて彼は磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩き、斬られ役として生きていくことを決意する。

テレビドラマ「剣客商売」シリーズなど数々の時代劇に出演してきた山口馬木也が主演を務め、冨家ノリマサ、沙倉ゆうのが共演。「ごはん」「拳銃と目玉焼」の安田淳一が監督・脚本を手がけ、自主制作作品でありながら東映京都撮影所の特別協力によって完成させた。一部劇場ではシーンを追加した「デラックス版」が上映。

2023年8月17日に池袋シネマ・ロサの一館のみで封切られ(8月30日からは川崎チネチッタでデラックス版が上映スタート)、口コミで話題が広まったことから同年9月13日からはギャガが共同配給につき、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ日比谷ほか全国100館以上で順次拡大公開される。

映画.comより引用

虚構となった現実を受け入れる侍

時は幕末、京都の門前、2人の侍が討伐の刻をうかがっている。そして、時は回る。標的の男との対決の中で豪雨が降り注ぎ、運命のイカヅチが落とされる。高坂新左衛門が目を覚ますと、そこは京都の映画撮影所であった。

『ブレージングサドル』的、映画セットというメタ構造を活用した序盤。やんちゃで過剰なSEとは裏腹に、緻密なショットの積み重ねにより、強固な笑いが提供される。高坂がガランとしたセットで目を覚ますと、カメラは横へとパンをしていき、1ブロック先で行われている撮影の風景が映し出されている。観客はここで「映画セット」を意識させられる。そこへ彼が迷い込むことで、彼が和を乱すのではないかという緊迫感が生まれる。監督にバレるかバレないかの宙吊りの中、大胆にエキストラへ話しかけていく彼の姿に滑稽さを抱くのだが、1回目の撮影ではギリギリ監督に発見されない。ホッと息をつくも、再テイクとなり、事象が再現される。笑いにとって重要な要素でもある「繰り返し」がスマートに行われるのである。

やがて、彼は状況を飲み込み、斬られ役者として第二の人生を歩もうとするのだが、この序盤での時間を少しズラした演出が伏線として回収されていき、現実の侍から虚構の侍へなった者が虚構の中で決着をつける物語を肉づけるものとなっていく。

全体的に、映画のテンポがゆったりとしており冗長に感じたり、SEがやんちゃで過剰な部分がある。SEに関しては、ぺらっぺらの竹光がSEを通して真剣に変わる、映画演出の面白さを強調する役割はあれども、過剰に感じるし、脚本もヤンキーに絡まれる展開があまりストーリーに絡まず蛇足に思える。また、個人的には『幕末太陽傳』の幻のエンディングである。男が町を駆け抜けるとセットを飛び出し現代へ迷い込む演出の応用を期待していたのだが、トリガーがイカヅチだったので、そういうことは起きずといった感じで熱量は低めなのだが、時折魅せる力強いショットに惹きこまれ、終盤の殺陣には驚くべき演出もあったので満足度は高い作品であった。
※映画.comより画像引用