『ジョイランド わたしの願い』クィア・パルム受賞のパキスタン映画

ジョイランド わたしの願い(2022)
Joyland

監督:サイム・サディック
出演:アリ・ジュネージョー、ラスティ・ファルーク、アリーナ・ハーンetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第75回カンヌ国際映画祭にてパキスタン映画として初めて出品され、『CLOSE/クロース』を抑えクィア・パルムを受賞した『ジョイランド わたしの願い』が2024/10/18(金)より新宿武蔵野館ほかにて公開となる。試写にて一足早く観たのでレビューしていく。

『ジョイランド わたしの願い』あらすじ

パキスタンで伝統的な価値観に縛られながら暮らす若い夫婦が、自分らしく自由に生きたいと願い揺れ動く姿を描いたドラマ。

パキスタンで2番目の大都市である古都ラホール。保守的な中流家庭ラナ家の次男ハイダルは失業中で、メイクアップアーティストの妻ムムターズが家計を支えている。ハイダルは家父長制の伝統を重んじる厳格な父から、早く仕事を見つけて男児をもうけるようプレッシャーをかけられていた。そんなある日、ハイダルは就職先として紹介されたダンスシアターでトランスジェンダー女性ビバと出会い、そのパワフルな生き方にひかれていく。

監督は、本作が長編デビューとなる新鋭サーイム・サーディク。本国パキスタンではLGBTQを描いたことで保守系団体の反発を受けて政府から上映禁止命令が出されたが、監督・出演者たちの抗議活動やノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイらの声明によって撤回された。2022年・第75回カンヌ国際映画祭にパキスタン映画として初めて出品され、「ある視点」部門審査員賞とクィア・パルム賞を受賞。

映画.comより引用

クィア・パルム受賞のパキスタン映画

本作はスタンダードサイズの中、小津安二郎映画のような空間に人を嵌め込んでいくことにより閉塞感を表現した作品となっているが、物語を追っていく中で撮影の手数の多さに驚かされる。

無職で弱弱しいハイダルに対して、「神に祈りを捧げながら山羊を殺せ」と家族が命令する。しかし、ナイフを持った彼は、なかなか山羊を殺すことができない。見かねた妻がサッとナイフを奪い取り殺す。下からのアングルでハイダルの焦燥を魅せ、あっさりと殺しが行われる様子を真上からのロングショットで収める。ドライなシークエンスに惹きこまれる。

この手の映画では、翳りを用いた閉塞感の表現が多いのだが、カラフルなライティングや陽光を使い分け、空間の中で誰にフォーカスを当てるのかを明瞭に使い分けている。

そしてなんといっても家父長制が支配しホモソーシャルな空間がもたらすヒリついた空気感を掬いあげているのがよい。中盤で、ハイダルがダンス仲間にアウティングをされるのだが、カメラはカットを割らず嘲笑い彼をイジる群れにジッと眼差しを向け続けるのである。

本作はパキスタン社会に蔓延る問題を静かに物語る一本であった。

2024/10/18(金)より新宿武蔵野館ほかにて公開。
※映画.comより画像引用