箱男(2024)
The Box Man
監督:石井岳龍
出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
2024/8/23(金)より安部公房の同名小説を映画化した『箱男』が公開となる。試写にて一足早く鑑賞したので感想を書いていく。
『箱男』あらすじ
作家・安部公房が1973年に発表した同名長編小説を、「狂い咲きサンダーロード」「蜜のあわれ」などの鬼才・石井岳龍監督が映画化。
ダンボールを頭からすっぽりと被った姿で都市をさまよい、覗き窓から世界を覗いて妄想をノートに記述する「箱男」。それは人間が望む最終形態であり、すべてから完全に解き放たれた存在だった。カメラマンの“わたし”は街で見かけた箱男に心を奪われ、自らもダンボールを被って箱男として生きることに。そんな彼に、数々の試練と危険が襲いかかる。
1997年に映画の製作が決定したもののクランクイン直前に撮影が頓挫してしまった幻の企画が、27年の時を経て実現に至った。27年前の企画でも主演予定だった永瀬正敏が“わたし”を演じ、“わたし”をつけ狙って箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者役で浅野忠信、箱男を完全犯罪に利用しようともくろむ軍医役で佐藤浩市、“わたし”を誘惑する謎の女・葉子役で白本彩奈が共演。
箱男を意識する者は箱男になる
安部公房の「箱男」は、段ボールで作った箱に入り意図的に視野を狭くし匿名なる存在として生きることで自由を獲得しようとする者が「箱男」というアイデンティティの中で思索を巡らす内に本物/偽物、現実/虚構の狭間で足掻くことになる内容だ。2020年代の世界で考えれば、インターネットのメタファーとして「箱男」は応用でき、陰謀論に染まる者の話としてアップデートできそうなのだが、石井岳龍監督はそこへ転がることなく正面から安部公房の言葉を映像言語に翻訳していく。それもATGのタッチで。
庭に存在していた箱男をエアガンで射殺。残された段ボールに身を投じたことから箱男として生きることとなる。街中に潜伏し、女の足を凝視。思索をノートに書き留める箱男は、襲撃者から逃げまどいながら生を全うする。その過程で病院にたどり着き、そこに蠢く陰謀と対峙。それにより実存の危機に瀕していく。
映画は「箱男を意識する者は箱男になる」といったフレーズを反復する。これがやがて思索、創作における他者と自己との関係性の物語であることを導く鍵となる。
映像化されて気づいたのだが、本作はデヴィッド・クローネンバーグが「裸のランチ」を映画化したのに近いものといえるだろう。『裸のランチ』では目にしたものをタイプライターで書き留めていくことでスパイである自己を保っている。しかし、虚の世界にいる中で執筆したとしてもそこでの自己は外側からは虚でしかない。「箱男」も同様に社会から自由にいようとするも、箱男であることに縛られ不自由となっている世界が描かれており、果てしない虚の中から自己を掘り出そうとする物語となっているのだ。
これは是非とも原作を読んでから観ることをオススメしたい。
※映画.comより画像引用