【アルバム感想】ピーナッツくん『FALSE MEMORY SYNDROME』
VTuberにハマって数ヶ月になる。VTuberにハマる中で、あるアーティストに注目するようになった。それは、「ピーナッツくん」だ。甲賀流忍者!ぽんぽこと共に活動するVTuberであり、兄妹ならではの息のあったツッコミとボケが面白い方々である。このコンビは、バーチャルだけでなく、着ぐるみを制作してゆるキャラグランプリに進出したり、音楽フェスに出演したりしている。特にピーナッツくんに関しては、超絶技巧のリリックを作ることができ、グミの美味しさを賞賛した「グミ超うめぇ」において最後の晩餐やぐるナイと絡めていくユニークさに衝撃を受けた。
さて来る7/4(月)にピーナッツくんのライブ「Walk Through the Stars」が開催される。無事チケット当たったので、予習でピーナッツくんのCDBOXを購入した。3種のアルバムが入っていたので、レビューをしていく。
今回は『FALSE MEMORY SYNDROME』について書いていく。
『FALSE MEMORY SYNDROME』はアニメ作家、ゆるキャラ、そしてVTuberとして様々な次元で活動してきたピーナッツくんの自由さが炸裂したアルバムだ。全体的に、ポップで耳馴染みある楽曲が多く、ピーナッツくんの音楽を知るには打ってつけの入門書といえよう。とはいえ、コミカルな旋律とは裏腹に毒が仕込まれているのは確かで、星野源が「夢の外へ」、「日常」、「ワークソング」などを作っていた頃を彷彿させる。
例えば、「おやすみグッナイ(feat.チャンチョ)」。Suchmosの旋律に浸りながら、チルアウトする内容なのだが、その歌詞の中に「ミュートするんだうるせぇ無数の口先だけのミジンコを」と忍ばせている。人気が出るほど、煽りや中傷コメントが来る。その痛みは、心身を傷つける。そのナイフをミジンコと定義し、無視していくインフルエンサーとしての苦悩を物語っているのだ。自分も、若干インフルエンサーなだけあってこの感覚に共感するし、感傷的な旋律で語られると泣けてくる。いつもは、 暑苦しく突っ込んでいるピーナッツくんの繊細な感情に触れる楽曲だ。
彼の苦悩の面影が攻撃的な形で表象されている作品は「おねがいマーニー」だろう。これは恐らく、ピーナッツくんの実体験が語られているのだろう。
ピンハネ隠していたの許さねぇからな
一生キリがねぇ噂話
引き金手にかかった
その気になりゃツイッターにDM晒すこともできる
だけどバカのやることでしょ
Money more money
もうみんな一緒でしょ
時たま、失礼な依頼やDMが来ることがある。DMを晒すこともできるけれども、長期的に見てデメリットしかない。だから「バカのやることでしょ」とグッと抑えて内なる闇に放り込む苦虫を噛み殺したような感覚を歌にこめている。VTuber、楽しい仕事に見えるかもしれないが、金の呪縛から常に追われている実態を曝け出している楽曲である。
また、ピーナッツくんは中の人が憑依して演じられる存在である。中の人は他にもチャンチョやオレンジ博士といった別人格に憑依することができる。この仮面を付け替えて生み出される世界について物語った「ピーナッツくんのおまじない」は彼を知る上で最重要な楽曲であり、唯一無二の存在だろう。目を覚ます。現実か虚構か、限りなく虚構に近い現実としての「リアル」かを模索する様子は、李良枝の小説「由熙」における、ひらがなの「あ」かハングルの「ㅏ」か悩む様子に近い葛藤が染み出している。そして、
間違いなく君がピーナッツくんだ
ぼくを救ってくれたマイヒーロー
美しいことの中にある不安も
思い出せば良いキバついた黄色
と中の人の仮面を外した声で、虚像によって救われた自己を吐露していく。ピーナッツくんとは、我々が内なる世界に複数の人格を生み出して脳内会議する様子を表に引き摺り出しスペクタクルに仕上げているんだと気付かされるのだ。
ピーナッツくんの才能と視点の慧眼さに驚愕するアルバム出会った。