コロンバス(2017)
Columbus
監督:コゴナダ
出演:ジョン・チョー、ヘイリー・ルー・リチャードソン、パーカー・ポージー、ロリー・カルキン、ミシェル・フォーブスetc
評価:80点
今年の三月に行われた第13回大阪アジアン映画祭で、絶賛された作品『コロンバス』。米国iTunesで配信されていたので、観てみました。そしたら、あまりの美しさに、ブンブンの言葉の杖がへし折られ、感想を書くまで数日を要する凄まじい映画でした。
『コロンバス』感想
建築学者の父が倒れ、しばらくコロンバスに滞在することになった男と薬物依存症の母を看病する為に夢を諦めコロンバスの図書館で淡々と生きる女。二人は邂逅し、建築という共通の知識でもって惹かれ合う…小津の魔法使い《コゴナダ》現る!
ロベール・ブレッソン(“Hands of Bresson”)やアルフレッド・ヒッチコック(“Eyes of Hitchcock”)等の映画監督にまつわるヴィデオ・ドキュメンタリーを撮っていた韓国系アメリカ人監督コゴナダが初めて撮った長編映画。《コゴナダ》と言う不思議な名前は、小津安二郎映画に欠かせない脚本家の野田高悟からとったとのこと。コゴナダ監督は大の小津安二郎ファンで、”Ozu: Passageways”では、小津安二郎映画に登場する細道に焦点を絞ったマニアックなドキュメンタリーを発表するほど小津映画に惚れ込んだ方だ。そんな監督が満を期して本作を撮ったのだがあまりの美しさ。冒頭から、脳内のスカウタがぶっ壊れるほどのカメラワークに心が折れそうになりました。だって、撮影監督ってエリシャ・クリスチャンですよ!『グリーン・ランタン』とか『ミュータント・タートルズ』の撮影監督ですよ。彼のキャリアからは想像もできない、と言うよりも本作の撮影に焦点を置いた個展が開けるほどの1mm足りとも隙がない、小物の配置色彩までこだわり抜かれた構図に観るものは涙を流すでしょう。
冒頭、”Professor,Professor”と女性がエーロ・サーリネンのアーウィン・ミラー邸をうろつく。小津譲りのフィックス世界で完璧な美を作り出す。本棚と奥の空間。通常雑多になってしまいそうな構図ですら、「嗚呼、なんて美しいいんだ」とため息が出るほどだ。本作で映し出される構図は絵画や写真においてスタンダードな構造だったりする。
例えば、 ミーロン・ゴールドスミスが印刷所として作った”THE REPUBLIC”がヒロインのオフィスとして使われている。オフィスの廊下の終着点を画面の中央にもってくることで遠近感を強調させている。これ自体はありふれた手法だし、”Ozu: Passageways”を観ると、やってみたかったんだなと感じる。ただ、彼の細部のこだわりがオリジナリティを作り出す。スタッフのデスクに貼ってある付箋のカラーバランスまで完璧にコントロールされているのだ。
さて、いい加減内容について話そうじゃないか。
本作は、コロンバスに留まることとなった者と、コロンバスを出たい者が建築という共通知識でもって惹かれあっていくドラマだ。このドラマも小津安二郎研究者としてのある種論文のような作りとなっている。小津安二郎は、留まる者閉じ込められた者という構造でよく物語を作る。『東京物語』では尾道から東京へやってきた祖父母と、東京の忙しなく動き自己中心的な東京という空間に閉じ込められた家族という対比が描かれている。『秋刀魚の味』では、婚期を迎え、家を出て行こうとする娘と、娘が外に出てしまうことに切なさを感じ、どこか閉じ込めておこうとしてしまう父との対比が描かれている。外と内の関係を小津安二郎は描いているとコゴナダ監督は分析し、蝶番のようにして男と女を配置する。
そして、物語は多くの恋愛映画とは異なり決してドラマチックなことは起きない。下手すれば小津安二郎の作品よりも地味である。それでも、撮影ないし、終盤でヒロインが踊る場面しかり数少ないメリハリと、圧倒的撮影の美しさで観る者の心は浄化させる。ブンブンの言葉では、これ以上の言葉で魅力を伝えるのは難しい。自分の文章力のなさに泣けてくるのですが、観る機会があれば是非挑戦してみてください。
※本作に登場する施設情報は”visitcolumbusindiana”にまとめられています
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