オーバー・フェンス(2016)
OVER THE FENCE(2016)
監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー、蒼井優、
松田翔太etc
評価:95点
一昨日、引き替えたライムスター
宇多丸のウィークエンドシャッフル
お便り賞金2,000円で
山下敦弘監督最新作
「オーバー・フェンス」を
観に行った。
当たり外れが激しく、
「マイ・バック・ページ」、
「苦役列車」は大絶賛だが、
「もらとりあむタマ子」や
「天然コケッコー」は
チョー苦手という完全
バクチもの。
非常に不安だったのだが、
これが大傑作でした…
「オーバー・フェンス」あらすじ
東京から訳あって函館にやってきた男は、職業訓練学校で
大工の勉強をしている。
同級生に飲みに誘われても、
薄ら笑いを浮かべ断る
彼だったが、ある日
同級生代島に誘われ
キャバクラに行くと、
変なキャバ嬢・聡と
出会い心を通わせていく…
文学と映画の狭間の
ファンタジー
本作は、かの有名な
函館出身作家・佐藤泰志
が手がけた短編の映画化だ。
佐藤泰志ものといえば、
「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」
と評判高い作品が揃っている。
しかし、本作はそれらの作品を
凌駕するクオリティを有している。
なんたって、両作で描けなかった
文学性を「オーバー・フェンス」は
描いているからだ。
つまり、文学的行間が映画に
あるとのことだ。
主人公の男は東京で
妻と別れ、子供とも会うことすら
許されない状況となってしまう。
東京での挫折故に北海道に
やってきて、よりにも社会的地位が
低い者が集まる職業訓練学校に入学する。
男の薄ら笑いの正体が、
物語が進むに従って、
田舎や底辺を静かに見下した
態度であることがわかり、
わかると同時に「俺は悪い人間ですよ」
という台詞に重みが増す。
そして、頭が狂った女・聡
との対話を通じて、
男は職業訓練学校や
キャバクラに居場所を
見出していく。
多くは語らず、
台詞の一つ一つに
重みを持たせ、
行間で真実を
教える極めて文学的
演出が施されているのだ!
そして、何よりも凄いのは
文学的でありながらも
映画的でもあるのだ。
職業訓練学校の人々を
映すとしたら、どうしても
社会派になりドキュメンタリー
タッチで撮りたくなる。
ましてや、蒼井優や
松田翔太に徹底した
北海道訛りで演技をさせ、
まるで現地人のような
限りなく素に近い演技で
画面を縦横無尽に徘徊
させるのならやはり
ドキュメンタリータッチに
依存したくなるものだ。
しかし、山下監督は
徹底的に画面を作り込む、
カメラはフィックス、
シームレスに動かしている
ところに映画性があった。
つまり、何が言いたいかというと、
本作は映画であれ文学であれ、
ある種のファンタジーだ。
職業訓練学校というシリアスな
舞台を描きながら「人間の適応」
を寓話化している。
ドキュメンタリータッチに
しないことで、ラストの
ソフトボールの試合の
救いあるシーンに
説得力がある。
とにかく、山下監督の
バランス感覚に優れた
演出。そして
オダギリジョー、蒼井優、
松田翔太の等身大の
職業訓練学校生、
人生にくすぶっている
奴らの演技に心熱く
させられた逸品でした。
テアトル新宿は平日でも
超混んでいるので、
これから観る方は、
予約をして観ることを
オススメします。
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