“Ç”トロント国際映画祭観客賞受賞!フリッツル事件に基づく「ルーム」原作の翻訳が凄い!

部屋

部屋 エマ・ドナヒュー

著者:エマ・ドナヒュー
翻訳:土屋京子

年が明けて映画ファンが一番気になるのは、
アカデミー賞ですね~
今年は、カンヌ映画祭で話題をよんだ
「キャロル」やスピルバーグの戦争サスペンス
「ブリッジ・オブ・スパイ」、ジャーナリスト映画
「スポットライト」など期待作が目白押し、
個人的には、「マッド・マックス/怒りのデス・ロード」
がどこまで行くのか、外国語映画賞を何が
獲るのかが気になる。

さて、アカデミー賞ノミネート作品を
予想するのに有力な映画祭がいくつかある。
三大映画祭+サンダンス+トロントだ!
特にトロント国際映画祭は
「イミテーション・ゲーム」
「それでも夜は明ける」「英国王のスピーチ」
「スラムドッグ$ミリオネア」

最高賞の観客賞を受賞した作品が
比較的アカデミー賞の花形作品となる
傾向がある。

そして、2015年の受賞作品は
「ルーム」が獲りました!

2008年にオーストリアで発覚した
24年間も父親に地下室に監禁され、
何度も強姦に遭い、多数の子どもを
出産させた驚愕の事件だ。

その事件にインスパイアを受け、
エマ・ドナヒューが
5歳の少年目線で描き、
ストックホルム症候群
トラウマの真相を
独特な語り口でえぐり出した。

日本公開は決まっているようだが、
まだまだ先のようなので原作を
読んでみました。

《大だっ走》《虫ば》etc独特なひらがな表記

本作は読書好きなブンブンですら
見たことのない文体で描かれている。

『ぼく、きょう5才になった!きのう夜《洋ふくだんす》で
ねるときには4才だったけど、まっくらけの《ベッド》
で目がさめたらア、ブ、ラ、カ、ダ、ブ、ラ~5才に
へんしんしてた!(上巻p9より引用)』

冒頭のこの文を見て、ダダ者じゃない感が
ビリビリと伝わる。もちろん、原書も5才の
少年感全開の文法破り散文調の書き方がされているの
だろうけれど、土屋京子の日本語が持つ表現の
バリエーションを最大限に使った訳が作品を
さらに盛り上げている。マーク・トウェインの
「トム・ソーヤーの冒険」や「ハックルベリー・フィンの冒険」

等を訳している彼女が放つ技術の嵐にこれぞ翻訳!と
唸らされる翻訳家志望者必読のテクニック集となっていた!

あとがきに彼女が使用した技術の解説が載せられている。
《大だっ走》《虫ば》のように5才の主人公の
ジャック視点の文はジャックがもし日本人だったら
この程度の漢字は分かるかどうかで「ひらがな」にするか
漢字にするかを定め、大人視点の場合は戻す。

そして、「書く」と「描く」を混同させたり、
「思い出す」を「おぼい出す」と発音による
誤変換で表す。今となっては、会話の台詞が
脳内で自動的に正しい漢字に変換されてしまうが、
土屋京子は徹底的に知的レベルが高い5歳児と
いうキャラクターを掘り下げて使用する単語を
選び抜いている。この技術は本当に凄いな
と感じた。

「部屋」の気になるストーリーは?

本作は土屋京子のハイレベルな翻訳により、
どっぷりと事件の当事者の気持ちに入り込む
内容となっている。

5才の少年ジャック目線で語られる、
監禁生活。ジャックにとって物心ついた時から
世界は「部屋」の中だけ。部屋の外は虚無だと、
テレビの中とママの言葉だけが真実だと
信じている。確かに、幼少期ブンブンも
母親から「夜更かしすると鬼が出てくるぞ」
とかいう仮想童話を信じてい。忘れかけていた
そんな思い出を次々とえぐり出していく。

やがて、頑張って母親と少年ジャックは
監禁された「部屋」から脱出するが、
すぐに病院にほぼ監禁状態、
世間から好奇の目線が注がれ、
母親はどんどん精神がおかしくなっていく。
ストックホルム症候群に近い状況になり、
「部屋」の生活に囚われてしまう。

この手の症状の人って、罹ったことのない人
からすると、全く感情移入できなくなりがちだが、
エマ・ドナヒューは巧みな会話捌きでどんどん
読者を引き込んでいく。

医者やマスコミと母親の会話が常に不協和音、
しかもいや~なタイプなのだ。
別にズレた答えって訳じゃないんだけれど、
医者やマスコミが本当に聞きたい答えを
言わない、彼らが言われて嫌になるような話題に
どうしても擦った答えを放ってしまい、
人を不快にさせる。んでどんどん孤立していって、
監禁生活へ戻りたくなっていく。

このスパイラルを出る過程を、
ジャックという何も社会を知らない少年目線で
描くから読んでいて辛くなってくる。

映画版は果たしてこのヤバさを表現できているのかが
見物だ!
噂によると主演のブリー・ラーソンと
ジェイコブ・トレンブレイ
の演技が半端ないとのこと。

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