『北(ノルテ)-歴史の終わり』ラヴ・ディアスのクリスマス映画はいつもとは違う!

北(ノルテ)-歴史の終わり(2013)
Norte, the End of History

監督:ラヴ・ディアス
出演:Sid Lucero,Angeli Bayani,Archie Alemania etc

評価:70点

今年は、モンスターハンターのようにフィリピンの怪物監督ラヴ・ディアスの作品と対峙しまくり、4ほんの作品を観ていきました。そして今年も暮れ、ついに5本目の作品『北(ノルテ)-歴史の終わり』に挑みました。ラヴ・ディアスにしては珍しくカラーの作品。果たして…

『北(ノルテ)-歴史の終わり』あらすじ

ドストエフスキーの『罪と罰』に基づく物語。金貸しばあさんを殺した法律を学ぶ者。世の中は残酷で、全く別の人物に罪が被さり、牢獄に入れられてしまう。冤罪で牢獄に入れられてしまった彼に悲しみを抱く妻は、必死に子どもたちを育てようとする。一方、等の金貸し殺しは自由に町を歩き、正気を取り戻そうとするのだが…

ラヴ・ディアスにしては珍しいカラー映画

米国iTunesで買って観たのだが、前半何度か「これって本当にラヴ・ディアス映画?」と疑ってしまった。というのも、明らかに作風が違うからだ。いつもなら、限界集落のボロ家から始まったり、冒頭に序文が流れたりするのだが、まるでフランスの会話劇のように、カフェで人々が政治や哲学について延々と話すショットから始まるのだ。ラヴ・ディアス映画にしては珍しく、モダンなロケーションから始まる。そう思っていると、いきなり道端で女が血を流して倒れている強烈なシーンが流れる。そしてカメラワークも、かなり激しく動く。

調べてみたら、本作はラヴ・ディアスがカメラを回していなかったのだ。『悪魔の季節』『痛ましき謎への子守唄』のラリー・マンダが撮影を担当しているのだ。しかしながら、『悪魔の季節』『痛ましき謎への子守唄』と比べても、本作の撮影はラヴ・ディアスが自らの十八番を破り捨てて新たな表現を求めているように見えた。

例えば、カラー撮影という手法。白黒映画の時とは違い、色彩を持っている。監督お得意の陽光のコントラストに、青い水、橙の大地といった絵の具を混ぜることができる。それによって、例えば、荒野にポツンと女と子どもがいて抱擁するシーンに強烈な切なさが生まれる。また、牢獄の薄暗さと、フィリピンの自然を対比させることで、冤罪の苦しみというものを強固なものとしている。

さらにラヴ・ディアスは珍しく小道具を伏線として使用している。星型の模型。前半では骨組みだけのものだが、長い獄中生活が終わり妻と男が再会するときに、男が持っている星の模型は骨組みの周りに紙が貼られて一つの作品となっている。これは、獄中生活で、男は悟り、人を助けることに目覚める。男の心が絶望から癒えて、満たされていく様、また家族との愛が満たされる様を、星の模型の変化によって象徴させていると言えよう。

そして、その重く辛い轍の横で、平気でいる殺人犯。正気を取り戻そうとしているのだが、狂気の道へ引き摺り込まれていく様は、フィリピン政治家を匂わせる。

つまり、本作は、政治家の悪が世に彷徨う中で、市民は辛いなりにもなんとか生きる術を見つけようとするある種『この世界の片隅に』inフィリピンな作品だったと言えよう。

ちなみに、この映画は奇遇にもクリスマス映画です。とはいってもクリスマスツリーが小道具で使われるぐらいですが。ちょっとマニアックなクリスマス映画を観たいのであれば、この4時間の大冒険に足を突っ込んでみてはいかがでしょうか?

ラヴ・ディアス監督作記事

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