【東京フィルメックス ネタバレ考察】『川沿いのホテル』ホン・サンス、空間術の妙

川沿いのホテル(2018)
HOTEL BY THE RIVER

監督:ホン・サンス
出演:キ・ジュボン、キム・ミニ、ソン・ソンミetc

評価:85点

開催危ぶまれた東京フィルメックスが奇跡の復活!しかも、最強の作品しか提げずやってきた!そんなフィルメックス1本目は、まさしく映画祭に相応しい作品でした。ロカルノ国際映画祭でキ・ジュボンが男優賞を受賞した『川沿いのホテル』の魅力について語っていきます。※ネタバレ注意

『川沿いのホテル』あらすじ

詩人はホテルに宿泊している。今日は、息子たちが会いに来てくれるらしい。しかしながら、待てども待てどもなかなか息子たちはやってこない。コックリ、ホテルのカフェで寝てしまう詩人。彼が目覚めると、目の前に美女がいた。彼女に一目惚れした詩人は、息子そっちのけで美女を追い回す…

ホン・サンス最高傑作!空間の使い方に注目せよ!

川辺のホテル。詩人の男は、息子との再会を待っているが待てども待てどもやって来ない。退屈過ぎて、詩人は寝てしまう。そして、起きると目の前に美女二人白銀の空間にぽつんと立っていた。一発で惚れ込んだ詩人の、美女を追い回す旅が始まる、、、というホン・サンスにしては珍しくドラマチックな作品だ。

本作は、空間の妙が素晴らしい作品だ。父と息子たちは、ホテルのカフェの壁越しに座っていて、互いに気づかない。そして、父が庭で美女をナンパしている時、初めて息子たちの視界に入るのだが、息子たちは会話に夢中で気づかない。観客は、この作品に登場する人物が僅かな差ですれ違い、気づきそうで気づかないギリギリのラインにハラハラドキドキを堪能する。観客のみが知る全てという神の目線から、癖と癖のぶつかり合い。居酒屋トークから生まれるゲスで露骨な話題をニヤニヤしながら楽しむこととなる。

本作は、説明的な描写が一切ない。空間と登場人物の何気ない発言だけが、愛の執着を物語、その異常性とゲスさに思わず笑えてくる。例えば、詩人は、息子に会うと、「あっちの方がいい感じだからあっちでコーヒーでも飲もう」という。一連の顛末を知らない息子たちは、ホイホイと父の方へ向かう。でも一連の流れを知っている観客は、父が向かおうとしている方向は、美女が去った場所であることが容易に分かる。また、詩人は美女にぬいぐるみをあげようと、大きなぬいぐるみをわざわざ入手してホテルを徘徊するのだが結局見つけられない。このままでは、息子たちに悟られてしまう。悟られる前にぬいぐるみを処理しようと、息子に「ほら、これゲットした。あげるよ」と先手を打つ。ヒトというのは、背徳感が好きである。詩人はなんでも話すし、自分の愛についても簡単に息子に話すのだが、あえて出会ってしまった美女については話さない。気づかないようにしつつも、何かと口実をつけて会おうとする。まるで背徳感を楽しんでいるようにホテルでのひと時送るのだ。それと同様に、観客も覗き見感覚で、ゲスな愛を覗き込む背徳に多幸感を得る。ホン・サンスよ、観客をも共犯者にしようというのか!

詩人のコミュ障さに爆笑

そして、この作品はロカルノ国際映画祭で男優賞を獲った作品だけに、キ・ジュボンの魅力に満ちた作品だ。特に、彼と美女との会話が腹筋崩壊レベルに面白い。彼演じる詩人は、文学者でありながらも美女を前にするとボキャブラリが極端に減る。「君たちは本当に美しい」「君たちは素晴らしい」「君たちと会えて良かった。ありがとう」というフレーズをヘヴィーローテーションするだけなのだ。詩を読むと、超絶技巧が発揮されるのに、美女を前に言葉の杖が折られていく。そんな彼の周りをふわふわと浮遊し、大量のマッコリを呑んでベロンベロンになった詩人に、さらに酒を呑ませ、そのまま天に昇天させてしまう美女の罪深さにこれまた笑いが溢れます。

ホン・サンスの自己分析

ホン・サンス映画は、毎回自己分析を映画に投影させている。彼自身相当なマゾヒストであり、彼のミューズであるソン・ソンミやキム・ミニに「彼の映画は退屈よ。有名になったけど退屈よ」「最近有名になった(『それから』の世間表に対する自己批判か?)けれども、映画はつまらないわよ」と言わせ、映画と私生活が密接になりすぎた自分の今の心境を独り相撲させている。今回は、キム・ミニとタッグを組み始めてからの総括の意味合いが強い、皮肉こもった自己分析となっており、ホン・サンス好きとしてはツボでした。

映画祭オープニングにぴったりな一本

本作は、映画祭という特別な空間で観るに相応しい一本であった。映画祭という、普段映画館で遭遇しないようなTwitterやFilmarksの住人が一堂に会し、「あの人はひょっとして××さんかもしれない」という知りたいようで知りたくないワクワク感が包む空間で、この同じ場にいながら何も知らない人たちのなんとなく噛み合う会話の妙を堪能できるほど至高なものはありません。『川沿いのホテル』の男たちのように、全てを知っているようで何も知らない。実は誰かに見られている感覚をフィルメックスは提供してくれるので、相乗効果が巻き起こり、ブンブン私的ベスト1ホン・サンス映画でした。

万人にはオススメできないし、日本公開するのか微妙なところも(ホン・サンスだからきっと公開してくれると信じたいところだが…)あるが、ブンブンの心には間違いなく響きました。

余談:ぬいぐるみのシーンについて

上映後のトークセッションで、キ・ジュボンから面白い話を聞きました。この作品は、基本的に順撮りで、居酒屋でのシーンは本当に酒を呑みながら撮影した。ほとんど撮り直しもしなかったのだが、唯一ぬいぐるみの場面は撮り直したとのこと。当初、ムーミンのぬいぐるみを使って撮影していたのだが、著作権の関係で訴えられる可能性があったので、リスク回避の意味合いも込めて再撮影したとのこと。ホン・サンス映画でムーミン。これは観てみたかったなと思いました。

ホン・サンス映画レビュー

【ホン・サンス特集】「ソニはご機嫌ななめ」そりゃ怒るわなぁ

【ホン・サンス特集】「3人のアンヌ」イザベル・ユペール焼酎を呑む

【ホン・サンス特集】「自由が丘で」これは加瀬亮版「ラ・ラ・ランド」であり「メッセージ」だ!

TIFF2016鑑賞記録6「あなた自身とあなたのこと」初ホン・サンスは「君の名は。」だった…

『夜の浜辺でひとり』ホン・サンス×キム・ミニ偏愛映画第一弾

【ネタバレ考察】『それから』ホン・サンス、ついに5次元マスターとなった。

ブロトピ:映画ブログ更新

ブロトピ:映画ブログの更新をブロトピしましょう!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です