『BAD FILM』園子温最大の問題作にハイローの原点あり

BAD FILM(2012)

監督:園子温
出演:東京ガガガ

評価:80点

ここ数年、園子温はスランプに陥ったのか、『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』の勢いとは程遠い作品ばかり作っている。監督本人は、世間の批評から心も閉ざし、完全にどん底に陥ってしまった。ブンブンも最近の彼の作品はあまり擁護できない。そんな中、彼最大の問題作『BAD FILM』を観たら泣けてきた。Filmarks等の評判はメチャクチャ悪く不安でしたが、これが大傑作で、意外なことに『HiGH & LOW』シリーズの原型かと思わせるところも多かった。

『BAD FILM』あらすじ

香港が中国に返還された1997年。高円寺を舞台に、在日外国人排斥を掲げる神風と中国人グループ白虎帮の仁義なき戦いが繰り広げられていた…

痛々しい青春、過ぎ去った青春は美しく切なかった…

本作は、1990年代、路上パフォーマンスグループ東京ガガガと園子温がゲリラ撮影で映画を作ろうとしていた。寺山修司やフルクスサスに憧れたかのように、ゲリラ的、コントロール不可能なハプニングから面白さ、美を見出そうとするこの集団は、映画というおもちゃを使って東京をかき乱した。いきなり中央線をジャックするところから始まる。在日外国人排斥を訴える過激派グループ神風とそれに抵抗する中国人グループ白虎帮が対立し、一つの車両で大乱闘が繰り広げられる。それを、Twitterで投稿される隠し撮りのようなスタイルで撮る!撮る!撮る!

東京ガガガは、警察なんて知らん!と言わんばかりに、縦横無尽に東京を駆け回る。渋谷のど真ん中で演説をし始める。新宿アルタ前交差点で2つの団体が激突する。狭い商店街で逃走劇が始まり、街角に大量のビラがばら撒かれ荒野となった地を若者が彷徨う…ひたすらにアナーキー。前のめりで、寺山修司の二番煎じでバタ臭い、痛々しい若気の至りが240分映し出され、観ていて恥ずかしくなる。ただ、この映画は1995年から作られ、完成まで17年かかった。それだけに、熟成されて珍味のような旨さが滲み出ている。それこそ、ヤギのチーズのように臭く、クセが強烈なのだが味わい深い作品となっている。

話は、あってないようなものだ。神風と白虎帮の無軌道な乱闘をナレーションバックに描かれていく。一見すると、ただ撮りたい画を撮って、無理矢理つなぎ合わせているように見える。しかしながら、よくよく見ると普遍的且つユニークな視点があった。最初は、日本人VS外国人という構図が描かれていくのだが、段々と国境を超えた友情が芽生えていくうちにジェンダー間の闘いとなっていく。同性愛と異性愛の闘いへと発展していくのだ。

そして強烈な、暴力描写、差別的描写から、逆説的に人が見て見ぬ振りする社会の悪に対する告発が綴られていく。社会に対する問題提起をするべく、社会規範を破りセンセーショナルを生もうとする。今観ると、このやり方はダサ過ぎるのだが、音楽の使い方が絶妙でこれが妙に中高時代のホームビデオを観ているような切なさを感じる。こんな演出は、1990年代の園子温にはできなかったはず。

ハイローの原点だよね?

また、本作を観ると、どうもハイローの残像が見え隠れする。乱闘シーンのフォーメーション。組織のトップの会合シーン、廃墟の作り込みetc…ハイローのスタッフはひょっとして『BAD FILM』を参考にしたのではと思うほどに酷似していた。なので、ハイロー好きは評判に左右されず挑戦してみて欲しい。ひょっとすると嵌るかもしれない。また、園子温監督には是非ともこの時代のイケイケドンドンな作風を取り戻して欲しい。もう何年も待っているよ。『愛のむきだし』の時代に戻ることを…

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