【ネタバレ考察】『アンダー・ザ・シルバー・レイク』謎を解く鍵◇◇見る◇◇と◇◇臭い◇◇にあり

アンダー・ザ・シルバー・レイク(2018)
UNDER THE SILVER LAKE

監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ、シドニー・スウィーニーetc

※結末まで触れているネタバレ記事です。要注意!

評価:40点

イット・フォローズ

』で一役有名になったデヴィッド・ロバート・ミッチェルが、本来監督1作目に放つはずだった極私的才能のビッグバン映画をキテレツ傑作製造会社A24と一緒に作った。しかし、今年のカンヌ国際映画祭では、「ワケワカメ」と一笑。この手の難解ゲテモノ映画に強いはずのカイエ・ドゥ・シネマも白旗をあげた。

Twitterでは、デヴィッド・リンチだ、トマス・ピンチョンだ、カート・コバーンだと大盛り上がりお祭り状態。絶賛の嵐だ。無論、リンチやピンチョン好きなブンブンが惹かれないワケがない。観てきた。

『アンダー・ザ・シルバー・レイク』あらすじ

シルバーレイクでくすぶっている男サムは、向かいに住むサラに一目惚れする。彼の想いは叶い、運命の一夜を過ごすのだが、次の日に彼女は消えてしまう。「もう一度会いたい」一心で、調査を開始する。すると、セレブたちが何やら暗号で情報をやり合っているのではと思い始め…

今年のカンヌ国際映画祭、相手が悪かった

これがダメだった。ただ、他のダメだった人とはちょっと事情が違う。そして哀しいダメダメだった。というのも、なんと同じく今年のカンヌ国際映画祭に出品されたイ・チャンドンの『バーニング劇場版(BURNING)

』(日本公開2019年2月)と全く一緒だったのだ。核にする引用、そして謎の下に隠したテーマ、そして鈍重で遅々として進まないストーリー全てが一致してしまった(これについて書くと『バーニング劇場版』のネタバレになるので、別の機会に書くとする

)。

そして、オマージュや百科全書的単語の羅列がある本作はとにかく空回りしており、ノイズになってしまっている。例えば、『百万長者と結婚する方法』をテレビで観るシーン。映画ファンは、この映画はなんだろう?と気になる。しかし、すぐ横にこの作品のポスターが貼ってあり、謎々の面白さを取り上げてしまう。そして、明らかな『裏窓』オマージュがある世界で、いきなりヒッチコックの文字を出してしまう。デヴィッド・ロバート・ミッチェルは終始、謎をチラつかせ、直ぐに答えを投げつけてしまうのだ。
また、物語はA to Z一定リズムでしか進まないので、2時間20分が辛い。『インヒアレント・ヴァイス

』なんか同じスローペースな物語運びなのに体感時間5秒だったぞ!

イ・チャンドンの『バーニング劇場版』を観た後の世界でこれを観るのは些か地獄だ。彼の後半40分のドライブ、観終わった直後から始まる新たな物語を知っている以上、ノイズだらけの世界にうんざりしてしまった。ただ引用すればいいってワケではない。しかしながら、引用だらけの駄作『アーティスト』に比べたら光るものがあるのは確か。

それは《見る》という行為に対する深い洞察。そして、そこに隠し味で添えた《臭い》だ。

謎を解く鍵◇◇見る◇◇と◇◇臭い◇◇にあり

本作は、デヴィッド・ロバート・ミッチェルがドンづまっていた時に書かれた脚本の映画化。大物を夢見るが、全く芽が出ず燻る。この苦しさをサブカルに包んだ作品だ。それだけに《見る》に対する執着が凄まじかった。つまり、本作の《見る》行為に注目することで、謎が解明されます。

まず、冒頭アンドリュー・ガーフィールド扮するサムが、『裏窓』よろしく向かいの家を観察するところから始まる。美女サラを眺め、発情する。そして、彼の欲望は叶い、彼女との一夜を過ごすことになる。しかし、夢は儚く、美女は消えてしまう。そこから、彼は調査を始める。空き家になった美女の家を、ブラインドの隙間から覗く。そして、隠されたヒントを元に町に繰り出す。パーティーに行ったり、謎の人物のやり取りを見たりする。ここで、重要なのは本作に登場するサム以外の登場人物だ。まるで、彼を避けるように動くのだ。

サムは、大物になりたいと思っている。話題の渦中に入りたいと思っている。しかしながら、セレブたちは彼を避けるのだ。そして、避けるセレブに対して更なる執着を抱く彼は、「セレブだけが知る暗号」を知ることで渦中に入れるという妄想に取り憑かれていく…ここで《臭い》が良いアクセントとなる。サムはスカンクにおしっこをかけられ、体を洗っても臭いが残ってしまう。有名人になりたいと足掻くサムの痛々しさを冷たく見る人々という構図を、《臭い》に転嫁させているのだ。

そして、結局、パーティに行っても孤独で、スクリーン越しで指を加えて、セレブの狂乱を眺めることしかできない。暗号◇◇が《黙れ》という意味を表しているように、メガネのように見える◇◇が遠くから物事を黙って眺めることしかできないサム自身を象徴している。そして、家賃滞納で退去まで数日に迫った恐怖がそこに加わり、これが悪夢に化ける。レコードに隠された謎を解き明かし、老いた作曲家の家に上がり込むと、『Pinball Wizard』を弾きながら彼がサムに「メッセージはお前宛てではない」と叫ぶ。そんな彼を、ムスタングで殴り殺す。劇中に散りばめられたメッセージ《犬殺しに気をつけろ(BEWARE THE DOG KILLER)》の犬殺しがサムになっていく。自分はホームレスじゃないと言いながらも、ホームレスの王に救われる。彼の前で、《アクション》が起こり、女性は死に、アイテムは人の手から人の手に渡っていくが1mmたりとも触れることができないのだ。

ラストは希望か絶望か?

セレブの話題の渦中に入ろうともがく。ゼルダの伝説の地図とシリアル箱の中にある地図から、目的地を見つけ、いよいよ謎の正体を掴んだと思ったサムの確信は虚しく、手からスルリと謎が逃げていき、結局事象を眺めることしかできなかった彼は、ラストにサラとのテレビ電話で諦める。サラは遠い世界に行ってしまう。「私はこの世界で楽しく生きることにするわ」と語ると、サムは泣きそうな目で悟り別れを告げるのだ。そして、部屋に戻るとサブカルの豊富な知識を使って今まで散々熱中してきた謎解きが、虚無の骸として部屋に散乱している。そんな部屋を眺め、彼は思い立った様に向かいの醜い裸体を持つ女性の家に上がり込む。そして、彼女の家から自分の家を見る。管理人がやってきて発狂する姿をニヤニヤ見るサムが映し出され映画は終わる。これは、前のめりでイタかった生き様と別れを告げ、新たな人生をあゆみ始める希望あるエンディングと捉えることができる。と同時に、結局何者になれなかった自分の諦めという絶望的なエンディングと捉えることもできるのだ。

町山智浩が本作を悪夢版『ラ・ラ・ランド

』と称するのも納得だ。成功する者は一握り。多くは、都会にやってきて地を這うように頑張るが、全く芽が出ず、腐っていく。腐り果てた先にある《悟り》を描いた作品だったのだ。

無数のサブカルが意味ありげに目の前を漂い、伏線を回収しているのか、していないのか分からない煙のような作風に翻弄される。しかし、サブカル要素を排して見た際に、本作の謎が見えてくる。こう考えると、簡単に斬り捨てることのできない実に深い映画だと言えよう。

最後に…

いかがでしたでしょうか?

多分、ブンブンは『バーニング劇場版』を観ていなければ本作に嵌ったことでしょう。ただ、個人的にノイズがずっと鼻につきノレなかった。しかし、ノレなかったなりにも本作の謎を読み解きたい!という意欲に駆られる作品であった。本来、監督1作目に撮られるはずが、有名になった今作られた。有名になった監督の目線から捉えるイタい青春の砂鉄は、好き嫌い問わず観る者の心を鷲掴みにした。他の人の考察も読んでみたいと思ったブンブンでした。

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