【ネタバレ考察】『未来のミライ』は実質、官能映画『アイズ ワイド シャット』だった!

『未来のミライ』は実質、官能映画『アイズ ワイド シャット』だった!

夏休み目玉映画として公開されたものの、あまりにトリッキーな内容に賛否が割れに割れた怪作『未来のミライ』。当ブログの管理人ブンブン、予告編を観た段階では酷評になるであろうと予想して、半ば当たり屋感覚で観に行った。しかしながら、これがあまりにも狂った傑作で、数回に分けてブログ記事を書いた。特に、本作はスウェーデンのアート映画の巨匠であるイングマール・ベルイマン作品に似ていることに気づき、熱く書いた。しかしながら、「他に、もっと似た作品を観た記憶がある。」と喉に骨が刺さったような違和感を覚えていた。そして、ついにその作品を思い出しました。それが、官能映画『アイズ ワイド シャット』だった。今日は、『未来のミライ』と『アイズ ワイド シャット』が如何に似ているかについて語っていきます。恐らく、『アイズ ワイド シャット』の構造が分かると『未来のミライ』にかかった靄は晴れることでしょう。

『未来のミライ』はもちろん、『アイズ ワイド シャット』のネタバレ記事でもあるので、両作品鑑賞後に読むことをオススメします。

『アイズ ワイド シャット』とは?

まず、『アイズ ワイド シャット』とはどんな作品かを紹介します。『アイズ ワイド シャット』とは、1999年に製作された巨匠スタンリー・キューブリックの遺作である。原作はアルトゥル・シュニッツラーの『夢小説』。当時、夫婦関係であったトム・クルーズとニコール・キッドマンが巨匠の作る官能映画に出演したこともあり、公開前から話題になっていたのだが、いざ公開されると、あまりの難解さに観客が困惑した作品である。実際に、フランスのお堅い映画雑誌カイエ・デュ・シネマ ベストテンでその年の1位を獲得(1990年代全体のベストテンでは4位)したことからも如何に難解かが伺える。そして、ブンブンも18歳の頃、父親のDVD棚にあった本作(何故、こんなところに?)をワクワクドキドキしながら観て困惑しました。そして、町山さんの解説を聞いて腑に落ちた記憶があります。

そんな『アイズ ワイド シャット』のあらすじは次のようなものだ。
主人公の医者ビルは、妻アリスと倦怠期の関係にある。ある日、パーティでビルは、ドラッグに倒れた女を介護する。その時に感じたエロい気持ちを、後日妻に語ったら、彼女は逆ギレ。そこから、ビルは性の妄想に取り憑かれていく…

どちらもフロイトの夢判断を扱った作品だ!

さてそんな難解官能映画『アイズ ワイド シャット』のどこが、夏休み向けアニメ映画『未来のミライ』と似ているのか?それは両作品とも、フロイトの夢判断に基づく話なのだ。

フロイトの夢判断とは、人が観る夢は無意識に抑圧された欲求や記憶が投影されたものという考えである。過去に抱いたトラウマや、周りに対して抱くコンプレックスが形となって浮かび上がってくる様子は、両作品に描かれている。『未来のミライ』では、親の愛情を妹・ミライちゃんに奪われ、見捨てられてしまうのではという恐怖が、広大な東京駅で迷子になるという幻影となって、くんちゃんの前に現れる。孤独を癒すかのように擬人化したペットの犬、幼少期の母、そして未来のミライちゃんが現れ、彼は対話していくのだ。

一方、『アイズ ワイド シャット』では、ビルの妻以外の女の前で抱くエロい気持ちが、次々と《魔性の女》として彼の前に現れる。また性欲を抑圧するあまり、ゲイに間違えられるのでは?という不安が、チンピラ集団として現れる。そして、彼の無意識の恥じらいがドンドン大きくなり、ついには仮面淫乱パーティという舞台装置を作り上げてしまうのだ。

誰の夢なのか?

両作品が、難解なのは、夢描写が非常に曖昧模糊な点だ。胡蝶の夢とでも言おう。最初は、主人公の目線で観客は映画を観る。次々と巻き起こる怪奇現象に、惹き込まれていく。しかし、これが段々と、今自分の目の前で起きているのはどの次元の話なのかが分からなくなっていくのだ。『未来のミライ』では、くんちゃんが知るはずもない若かれし頃のじいじや、母の幻影を観る。これは何なのか?誰の夢なのかと疑問がフツフツと浮かび上がり、それが全然解決されず終わってしまう。

『アイズ ワイド シャット』では、終始現実離れした悪夢をビルは彷徨うだけ。そして、女が次々と彼を弄んでいく姿、彼が混沌の渦にいる様子を覗き見ているようなカメラワークを観ると、「ひょっとして妻が、高慢な夫に対する不満が炸裂した夢を我々は観ているのでは?」と思い始める。

『未来のミライ』の官能性の正体はこれだった!

『未来のミライ』を観た時、ブンブンは妙に本作から《官能の風》を感じた。くんちゃんがアナルに犬の尻尾を突っ込み、昇天したり、未来のミライちゃんからハチさんゲームの制裁を食らいマゾヒズムに目覚めるところはまさしくそうだが、映画全体からイランイランのような香りがした。これは、『未来のミライ』が親に愛情を奪われたことによる、性的欲求の爆発によるものだと考えることができる。『アイズ ワイド シャット』の仮面淫乱パーティの異様な高揚感に近いものを感じる。こりゃ、マジでR-18子どもと一緒に観てはいけない大人の寓話だ。

忘れ物シーンのアレってまさかのオマージュ?

実は、『アイズ ワイド シャット』を観直して、細田守監督が引用しているのではという疑惑の場面を発見した。それは、ビルが仮面淫乱パーティで司祭らしき人からパスワードを訊かれる場面だ。ビルは事前に入手した《Fidelio》唱えるが、どうやら違うらしく、仮面を脱げと言われてしまう。そして彼が仮面を脱ぐと「君は自由だ」と言われ釈放される。これは『未来のミライ』の東京駅のシーンで、迷子になったくんちゃんが忘れ物センターで係員に尋問されるシーンとにている。係員は、くんちゃんに家族の名前を訊くのだが、くんちゃんは全く答えられない。不気味な音楽が不安を掻き立てる。一度は、暗黒列車に連行されそうになるが、くんちゃんが「未来ちゃん」と叫ぶと、彼は迷子という状況から解き放たれる。

そして、どちらも“Fidelio”の逆を行なっている。”Fidelio”とはルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの唯一のオペラ。政治犯として投獄された夫を救うべく、妻が男装して、監獄に潜入するというもの。どちらの作品も、深遠なる闇に吸い込まれていったヒロインを救おうとするのだが、ヒロインに逆に救われる展開となっている。

細田守監督、育児の傍、『アイズ ワイド シャット』観ていたのでは?

最後に…

ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を観て、徐にトム・クルーズについて調べていたら偶然見つけてしまったこの発見。しかし、ネットで調べてみても誰も指摘していなかったので、今回書いてみたのだが、改めて文章にしてみるとベルイマンの『野いちご』以上にしっくりきた。細田守監督は、子育て中にベルイマンとかタルコフスキーとかキューブリックとか観てインスピレーションを掻き立てていたのだろうか?こうも狂った世界観に、何故製作陣はOKを出したのかが些か疑問だが、ブンブンは大好きだ。この幽玄な怪作、誰が何と言おうと、ブンブンは応援したい。

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