【ゴーモン特集】『ファントマ』彼は狡猾か滑稽か?

ファントマ(1913)
Fantômas(1913)

監督:ルイ・フイヤード
出演:ルネ・ナヴァール、エドモン・ブレオン、
ジョルジュ・メルシオールetc

評価:70点

アンスティチュ・フランセにて開催中のゴーモン特集。今回最大の目玉はルイ・フイヤードの『ファントマ』シリーズだった。『ファントマ』と聞くと、少し映画に詳しい人なら、「フランス版『犬神家の一族』でしょ!スケキヨが出てる」と言いたくなるところですが、ブッブー違います。『レ・ヴァンピール』のルイ・フイヤードが1913年にとった方のシリーズです。

東京国立近代美術館フィルムセンターの岡田秀則研究員によると、このシリーズはゴーモン社の歴史を語る上で非常に重要な作品になっているとのこと。少し岡田氏の話をまとめてから感想に入ります。

岡田秀則氏語りき、ゴーモン社と『ファントマ』の関係

1.ツール・ド・フランスと『ファントマ』の意外な関係

7/14(土)は、フランスの建国記念日パリ祭(Fête de la Fédération)。アンスティチュ・フランセ内ではシードルやクレープなどが販売され、片一方では古本市が開催され、お祭り騒ぎになっている中今回の『ファントマ』は上映されました。

7/14と言えば、ツール・ド・フランスでは毎回7/14を含むようにスケジュールが組まれている。何故、ここでツール・ド・フランスの話が?と思うかもしれないが、実はツール・ド・フランスなくして、『ファントマ』はなかったと言えるのだ。ツール・ド・フランスの始まりは1903年。アンリ・デグランジュが創設したことによる。ロト(L’Auto)の編集長だった。彼はモータースポーツを盛り上げるために企画したのだ。そんな雑誌ロトは、ある時期、全く広告欄が埋まらない事態に陥った。そんな中、モータースポーツのジャーナリストだったピエール・スーヴェストルと相方マルセル・アランが穴埋めの為に『ファントマ』という小説を書いた。当時の大衆小説は、悪に誘拐された人をヒーローが救助する物語が流行していた。その流行に乗った為、大ヒット。小説を当時としては破格の35サンチームで販売する経営戦略も功を奏し大成功を収めた。

2.吝嗇なレオン・ゴーモン

そのヒットに目をつけたのがレオン・ゴーモン。吝嗇で有名だったレオン・ゴーモン(演出料をフィルム1m換算で算出。1mあたり4.1フラン、約1600円しかギャラとして監督に入らなかった。フイヤードが第一次世界大戦に出兵している時には、1m3.1フランまでギャラが切り詰められていた。)だったが、パテ社に2000フランで映画化権が売られるところ、6000フラン(概算で約240万円)で買い取ったのだ。

レオン・ゴーモンは元々、「映画監督、脚本家、役者以外に何故金を払わなくてはならないのか?」という立場をとっており、原作ものの映画化を嫌っていた。また、ルイ・フイヤード自身は、「映画というものはオリジナルでなければならない」という別のベクトルにより原作ものを嫌っていた。しかし、そんな彼らですら大ブームとなっている『ファントマ』には惹かれた訳だ。

3.ルイ・フイヤード

そして、ルイ・フイヤードは『ファントマ』、『レ・ヴァンピール』、『ジュデックス』と連続活劇を制作し、《ゴーモン社のEsprit Maison(ゴーモン社の精神)》とまで呼ばれるようになり、ゴーモン社黄金期において800本近く映画を作り続けた。そんな彼の来歴を語るとしよう。ルイ・フイヤードは1905年にゴーモン社に入社。当時トップ監督であったアリス・ギィが退社し、1907年にはトップ監督へと躍り出た。パテ社と共に、芸人のアクロバット芸を映した短編、コメディを作り、しのぎを削っていた。ちなみに、彼は第一次世界大戦に出兵するも、4花月で心臓発作により除隊させられ、再びゴーモン社で働くこととなった。

『ファントマ』(フランスでは珍しくsを発音し『ファントマス』と呼ばれている)は、第一次世界大戦直前の、ベルエポック最後のパリが観られる貴重な作品。1911年の『ジゴマ(エクレール社製作)』以降、流行していった犯罪映画の走りともいえる。

さて、いよいよ『ファントマ』第1話について語っていくとしよう。

『ファントマ』あらすじ

ファントマがパレスホテルで、ダニドフ公爵夫人の資産を強盗する事案が発生!正義感に燃えるジューヴ警部は、捜査を開始。変幻自在に変装するファントマ。果たして彼は捕まえることができるのであろうか?

いきなりネタバレ!斬新な多重露光

まずいきなり、「『ファントマ』くんはこれから次の変装をしますよ!よーく覚えといてネ☆」といわんばかりの変装博覧会から始まる。当然ながら原作にはない。原作は、誰が『ファントマ』かを推理するミステリーなのだから。原作の最重要エッセンスをいきなり骨抜きにしていくスタイルに、ルイ・フイヤードのアンチ原作ものに対する意気込みが溢れている。「ネタバレしてたって、面白いものは面白い。むしろ親切設計だと思え」と言わんばかりの潔さに、圧倒される。

そして舞台はパレスホテル。12万フランをもって夫人は部屋に入ると、カーテンから、にゅっ!とファントマさん登場!金とアクセサリーを強奪しようとする。ただ、あまりに間抜けで、まるでMr.ビーンのような挙動不審さに、驚かされる。彼は間抜けで滑稽な奴か!と思うと、エレベーターの死角を使った華麗な手法でパレスホテルをおさらばする様子に、「こいつやはり只者ではないぞ!」と驚かされる。狡猾さがにじみ出ているのだ。このどっちつかずの悪党。『ダークナイト』のジョーカーのようだが、あれよりも人間味溢れる姿にすっかり惹かれていった。

そんな悪党をジューヴ警部が捕まえようとする。しかし、ルパン三世がごとく、あと一歩のところで捕獲失敗に終わる。

サイレント映画な為、途中こそ、ねるねるねるね、睡魔が襲って来るのだが、面白い作品であった。

『ファントマ』シリーズ記事

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