【ネタバレ解説】『天国はまだ遠い』濱口竜介の見えざる手

天国はまだ遠い(2016)

監督:濱口竜介
出演:岡部尚、小川あん、玄理etc

評価:90点

第71回カンヌ国際映画祭に異次元から参戦した『寝ても覚めても』。通常カンヌ国際映画祭のコンペティション作品は、次世代の巨匠を発掘する《ある視点部門》から徐々に知名度を上げて、ようやくコンペティション入りを果たせるもの。しかしながら、『ハッピーアワー』で国内外に衝撃を与えた鬼才・濱口竜介は、全くカンヌ国際映画祭との接点はなかったにも関わらずコンペティション入りを果たした。『寝ても覚めても』は、対抗馬の是枝裕和『万引き家族』と比べると、批評家から厳しめの評価だったが、それでもCHAOS REIGNS等のフランス現地メディアの幾つかで絶賛された。間違いなく、深田晃司に次ぐ世界と戦える監督となった。そんな濱口竜介監督の短編映画『天国はまだ遠い』がWeb上で配信されていたので観てみた。濱口竜介は『PASSION』、『親密さ』、『ハッピーアワー』と一貫して、ヒリヒリする会話空間を描いて来た。果たして…

※(ネタバレ注意)本作は、予備知識を入れないで観た方がいい作品。なので、今後観る予定のある方は、絶対に読まないでください。

『天国はまだ遠い』あらすじ

濱口竜介特有の厭らしい会話がファンタジーと融合し、ベルイマンも目玉が飛び出る怪作となった。

冒頭、AVのモザイク入れを生業にしているらしい男と、そこに相応しくない少女が共存している。そして、彼に仕事の依頼が来る。少女は「その仕事受けて!」と言う。そして、場面はカフェに代わり、依頼主である女と男との会話が始まる。そして次の瞬間、現実には映し出されていない虚像に背筋が凍った。カフェでの二人の会話を聞いていた17歳の少女。彼女が、すっと、二人の目線と目線の間に顔を埋める。にも関わらず、二人は何事もなかったかのように語り始めるのだ。そう、少女は幽霊だった。それも、何年もの前に凄惨な殺人事件によって殺された少女の幽霊だったと言うことに。

その前のシークエンスで、シームレスに男と少女は話していたではないか?なんなんだ!混沌が観客に襲いかかって来たのだ!!

そして、場面は再び男の実家へ、、、すると男と少女は再び語り始める。この時点で、ようやく、この幽霊は男に見えて女に見えないと言うルールが明確となる。台詞ではっきりと説明しなくても、ここまで特殊なルールを表現できるなんて濱口監督なんたることだ!と唖然とさせられた。

いよいよ第3部を迎える。依頼主は、少女の妹。取材していくうちに、この男に行き着き、ドキュメンタリーとして彼を撮ることで、自分の心に溜まった膿を抜こうとしているのだ。そんな彼女と男の撮影を通じたセッション。

男はこう言う「彼女は俺に憑依することができる。試してみるか?」

霊的なものを信じない彼女と、少女が憑依した男のセッションが幕を開ける。岡部尚の狂気な演技が、少女の憑依による異様な空間を作り出す。演劇とはまた違う異様な空間だ。フレームを一枚挟むことで虚像が強調されているのだ。実に映画的、これぞ映画だ。

そしてこのセッションは、「虚像をどこまで信じられるのか」というテーマを中心に置き、ひたすらディスカッションを通じて突き詰めていく。神の視点で、その一部始終を傍観する我々ですら、目の前を信じられるのかが危うくなる。記憶の不確かさにより、少女は「父親の生年月日」と言う重要情報を間違えてしまうのだ。当然ながら、妹の信頼は得られない。少女は、なんとか信じてもらおうと幼少期の事件を語るが、妹は覚えていない。実証が絶望的になってしまう修羅場を迎える。しかし、退廃的なクソ男からは想像もつかない優しい表情と声が次第に妹の心を鷲掴みにする。この10分以上に渡るセッションから生まれたカタルシスは宝石のように美しかった。

濱口竜介監督、恐るべし、今秋日本公開の『寝ても覚めても』がとても楽しみだ!

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