【カンヌ国際映画祭特集】『タクシー・ブルース』ペレストロイカがよくわかる

タクシー・ブルース(1990)
TAXI BLUES(1990)

監督:パーヴェル・ルンギン
出演:ピョートル・マモノフ、
ピョートル・ザイチェンコetc

評価:80点

第43回カンヌ国際映画祭、ベルナルド・ベルトルッチ陣営が『ワイルド・アット・ハート

』にパルムドールを与えた回。TSUTAYA渋谷店に、その回で監督賞を獲った作品『タクシー・ブルース』のVHSがあった。映画超人、透明ランナー(@_k18)がオススメしていたこともあり、鑑賞してみた。これが流石ベルトルッチ陣営、なかなかユニークで味わい深い作品であった。

『タクシー・ブルース』あらすじ

ペレストロイカ時代のソ連。真面目なタクシー運転手シュリコフはサックス奏者の若者リョーシャを乗せるが、彼は金を払わずトンズラしてしまう。怒ったシュリコフはリョーシャを捕まえて、サックスを取り上げる。しかし、リョーシャはアル中で自分を制御できない人物だと知り、シュリコフは彼の面倒をみることにするのだが…

ペレストロイカを重層的に捉えた傑作

本作は、ペレストロイカ時代を2人の男の生き様に見事反映させた傑作だ。ペレストロイカとは1985年にゴルバチョフが実行した改革運動だ。ソ連は、社会主義を推し進めていたが、社会主義の弱点が露呈し国家衰退の危機に陥っていた。社会主義は、富の徹底的な平等を掲げている。富の平等が推し進められると、国家に貢献しようがしまいが、努力しようがしまいが、平等に扱われる為、人々のやる気がだんだん失われイノベーションが起きなくなってしまう欠点がある。まさに当時のソ連は、それによって国家がどんどん衰退していった。それから脱する為、ゴルバチョフは民主主義を掲げ、国家の方針を大幅に変更した。この混沌をパーヴェル・ルンギン監督は、2人の男というミクロな視点に凝縮した。

まず、冒頭、まるでゴルバチョフが「民主主義、平和、ペレストロイカ、加速(Демократия, Мир, Перестройка, Ускорение)」と声高らかに掲げるがごとく、美しき花火が打ち上がり、混沌としたサックスが荒れ狂う描写から始まる。

そして、タクシー運転手とサックス奏者の青年にフォーカスが当たる。タクシー運転手は、社会主義に忠実で、真面目に粛々と働いてきた男。ソ連を信じている男だ。そんな男の目の前には、破廉恥で風紀を見出しまくっているサックス奏者がいる。まさに水と油の関係だ。タクシー運転手は腹が立ってしょうがない。しかも、サックス奏者に無賃乗車されてしまう。

こう聞くと、若者と老人のジェネレーションギャップを描いた凡庸な作品に見えるかもしれない。所謂、老害映画というジャンルに囚われている気がする。しかし、そうはならない。旧来のソ連と、ペレストロイカ以後のソ連という単純な比較にも陥っていない。実は、タクシー運転手とサックス奏者の交流を通じて、ペレストロイカによる影響を分析しているのだ。タクシー運転手は、ソ連時代に真面目に国に尽くしてきた人を象徴している。一方、サックス奏者は、社会主義によってやる気を失った人を象徴している。二人は、今までそれぞれの世界で平穏に生きてきた。しかし、突如訪れたペレストロイカによって今まで信じてきたものが崩され、また変化に対応しなくてはならなくなる。しかし、長年時代に飼いならされてきた二人は簡単に変わることができない。「変わることができない」という共通点でもって、水と油の関係である2つの側面は邂逅し、未来を築こうとするのだ。

ただ、やはりどうしても水と油の関係故に激しく対立する。タクシー運転手は、暑苦しいほど面倒見が良く、「鍛えろ、鍛えたら俺みたいになれるぞ」とエゴを押し付けてくる。それに対して、「老害だ」と反発する。お互いに苦しく、傷つけあい、心に虚無が広がる様。苦しい!と心の底から叫びをサックスが代弁する。そして、不器用ながらもお互いに新しい居場所を見つける。

パーヴェル・ルンギンは、シュールで混沌とした音楽、暴力、爆発、破壊でもっていずれ歴史の中に埋もれ忘れ去られてしまうであろう時代を切り取った。これは是非ともDVD化してほしい傑作でした。特に『タクシー運転手

』を気に入った人にオススメしたい作品であった。

個人的に、もし映画を撮るなら、洗車機から出現する車にドンケツするサックス奏者というビジュアルを真似したいと思った次第である。

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